エルサルバドルとの国交断絶を伝える台湾紙

8月21日午前、台湾と国交を結んでいた中米のエルサドバトル共和国が中国と国交を樹立することで、台湾と断交した。

蔡英文政権が2016年5月に発足して以来、西アフリカのサントメ・プリンシペ(2016年12月)、中米のパナマ共和国(2017年6月)、同じく中米のドミニカ共和国(2018年5月)、西アフリカのブルキナファソ(2018年5月)と断交し、エルサドバトルで5ヵ国となり、国交を結ぶ国は17ヵ国となった。いずれも中国による金銭外交の圧力で断交に至っている。

中国はブルキナファソには500億ドル(約5兆5000億円)の経済援助を持ち掛け、ドミニカ共和国にはインフラ開発に30億ドル(約3300億円)規模の支援を約束したと報じられている。

台湾外交部の「Taiwan Today」誌は、今回のエルサドバトル共和国との断交の背景にも同様のことがあるとして、下記のように報じている。

<エルサルバドル政府は2017年以降、わが国に対して多額の資金援助を求めていた。同国東部のラ・ウニオン港(Port La Union)開発計画への支援が名目だったが、わが国が専門の技師団を派遣して調査を行ったところ、同開発計画の実行は、わが国とエルサルバドル政府を深刻な債務危機に陥れる可能性が高いことが判明した。このためわが国は、同計画への資金援助を拒否することを決めた。>

<またエルサルバドルは2019年2月に大統領選挙を控え、すでに選挙態勢に入っている。エルサルバドルの政権与党は現在、世論調査で大幅に後れを取っており、台湾に対して選挙資金の援助を求めていた。しかし、これはわが国の民主主義の原則に大きく反するものであり、当然ながら同意できるものではなかった。>

ここにつけ込んだのが中国で、宮崎正弘氏は「中国の狙い」が台湾と断交させるだけでなく、港の確保による米国への牽制だとして、次のように分析している。

<数年前から中国のCITIC関係者がエルサルバドルの政府高官やビジネスマンに近付き、持ちかけていたプロジェクトは、港湾整備ではなく、ハイウエイと新幹線敷設だった。学校とか福祉施設の話は一切でなかったが、究極の目的は港だった。航行ルートで言えばエルサルバドルのラユニオン港は中継貿易のハブとして活用が可能であり、もし港湾施設の充実を図れば、商業港としても躍進できる。しかし中国の戦略では、軍事利用が優先し、商人の発想とは異なる。米国の勢力圏である中米諸国の脇腹にドスを突きつける格好になるのだ。駐エルサルバドルのジーン・メーン米国大使が、表明した。「中国の意図はラユニオン港の軍事使用です。注視する必要があります」>(宮崎正弘の国際ニュース・早読み)

下記の日本経済新聞が伝えるように「米国との接近が目立つ蔡英文政権に警告する意図で、圧力を一段と強めている」ことは確かなのだが、宮崎氏が指摘するように、米国を牽制するのが中国の真の狙いであろう。

中国には「指桑罵槐(しそうばかい)」という有名なことわざがある。中国人の行動原理を指すもので「桑を指して槐(えんじゅ)を罵る」、つまり、一見、台湾潰しのように見せかけながら、実は米国を脅かしたいという底意を秘めていたということだ。

米国が台湾との関係強化を積極的に進め、蔡英文総統の米国への立ち寄りでも厚遇し、これに中国が一矢報いようと大金を注ぎ込んでものにしたのがエルサドバトルとの国交樹立だったのだろう。

米国は西太平洋防衛の要である台湾を巡って、中国とこのように陰に陽に熾烈な戦いを繰り広げている。

米国と同様、日本にとっても台湾が「生命線」であることは自明のことなのだが、いっこうに日本の動きが伝わってこない。国交がなくても、台湾は世界貿易機関(WTO)に加盟しているのだから、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を結ぶことはできる。日本台湾交流協会は、すでに台湾とはFTAやEPAをいつでも結べる状態にあり、あとは政治の判断だと見ている。日本は経済面から台湾を支援したいものだ。


台湾、断交連鎖止まらず エルサルバドルと 中国が米接近に警告

【日本経済新聞:2018年8月21日】

中国外務省は21日、中米エルサルバドルが台湾との外交関係を断絶し、中国と国交を樹立したと発表した。台湾の友好国は残り17カ国まで減った。中国の圧力により台湾は5月以降に3カ国と相次ぎ断交に追い込まれた。中国は米国との接近が目立つ蔡英文政権に警告する意図で、圧力を一段と強めているとみられる。

中国の王毅外相とエルサルバドルのカスタネダ外相が21日午前、北京で国交樹立の共同文書に署名した。中国外務省によると、カスタネダ氏は台湾が中国の不可分の一部分だと承認。台湾とは「今後一切の公式関係は生じない」と言明したという。王氏は「178カ国が中国と国交を結び、(台湾が中国の一部とする)『一つの中国』原則は世界の趨勢だ」と強調した。

一方、台湾の蔡総統は断交を受け台北市内で緊急会見した。「(台湾の)主権を侵している」と中国を非難し、「台湾は圧力に屈服せず団結する」と強調した。

「一つの中国」原則を認めない蔡政権が発足してからの2年3カ月間で、中国に外交関係を奪われるのは5カ国目だ。経済力の格差を背景に断交の連鎖が止まらない。

台湾の外交部(外務省)によると、エルサルバドルは港湾開発や政権与党の選挙の資金として巨額の援助を台湾側に要求。台湾側が難色を示したのが断交の背景になったという。5月にカリブ海のドミニカ共和国と断交した際は、中国が同国のインフラ開発に30億ドル(約3300億円)規模の支援を約束したとされる。台湾側は「金銭外交だ」と批判を強めるが、打開する道は見えない。

中国との国交樹立に向けたエルサルバドルの動きを台湾側が察知したのは6月。7月には呉釗燮・外交部長(外相)を派遣するなど関係維持に奔走していた。中国側は今回、米に接近する蔡政権をけん制するために国交樹立のタイミングを見計らった節がある。

蔡氏は20日に中南米への外遊から戻ったばかり。19日には経由地として滞在した米ヒューストンで米航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センターを視察。台湾の総統として初めて米政府の関連機関を訪れた。米はアジアの安全保障や通商を巡り中国との対立が激化し、中国をけん制する「カード」として台湾と接近。米台が「対中国」で共鳴する構図に、中国は神経をとがらせていた。

中国側には台湾与党で独立志向を持つ蔡氏の民主進歩党を追い込み、弱体化させる狙いもあるとみられる。台湾では11月、20年の総統選の行方を占う統一地方選が迫る。親中派の最大野党、国民党は21日に「蔡政権は断交が続いていることを国民に謝罪せよ」とするコメントを出した。