本会は3月20日に開催の理事会・総会において今年度の政策提言「中国の覇権的な拡張に対し南シナ海の合同哨戒を直ちに実施せよ」を発表し、全会一致で承認・可決しました。

その後、漢文と英文に翻訳し、日本語版とともに1冊の冊子にまとめて印刷しています。

4月1日までに安倍晋三・内閣総理大臣をはじめ、大島理森・衆院議長、山崎正昭・参院議長、岸田文雄・外務大臣、中谷元・防衛大臣、菅義偉・内閣官房長官など政府要人に送付しています。

なお、政策提言は、承認・可決した総会時点での小田村四郎会長と副会長(加瀬英明 川村純彦 黄文雄 田久保忠衛 中西輝政)の連名となっていますが、送付状は渡辺利夫会長と副会長(石川公弘、加瀬英明、川村純彦、黄文雄、田久保忠衛)の連名となっています。

日本語版を下記にご紹介しますが、日本語版のPDFファイルおよび中国語版・英語版のPDFファイルは最下段に掲載しています。

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日本李登輝友の会「2016政策提言」
中国の覇権的な拡張に対し南シナ海の合同哨戒を直ちに実施せよ

平成28年(2016年)3月20日

会 長 小田村四

副会長 加瀬英明 川村純彦 黄文雄 田久保忠衛 中西輝政

はじめに

南シナ海において中国は、国際法を無視して人工島の造成や軍事施設の建設を急速に進めており、領有圈の拡大を図っている。

米国や沿岸諸国の抗議を無視した中国は、スプラトリー(南沙)諸島の7つの人工島のうち3つに滑走路を、4つにレーダー施設を建設し、パラセル(西沙)諸島のウッディー島には長距離地対空ミサイルを配置、軍用機を展開させるなど、南シナ海での島嶼や人工島の軍事基地化を急速に進めており、戦闘機の配備や排他的な防空識別圏の設定、そして聖域化の完成は時間の問題と考えられる。

中国の南シナ海戦略は、台湾の武力併呑の際の米国の軍事介入を阻止することと同時に、米国と対等な大国となる上で不可欠な核報復力を持つことである。

そのために、米国本土が攻撃可能な潜水艦発射型弾道ミサイル (SLBM)を南シナ海に展開した上で、人工島や島嶼を軍事基地化して海域の聖域化を図り、接近する敵を排除して確実な核抑止力を獲得しようとしている。

中国の南シナ海戦略が成功すれば、アジア・太平洋地域の既存の安全保障秩序が根底から覆ることとなろう。

一方、悪化する南シナ海の情勢に対し米国のオバマ政権は、これまで中国の行動を牽制する言葉を繰り返してはきたものの、中国の急速な動きに米国の対応が追い付けない状況が続いており、中国の行動を転換させたり、阻止することには成功していない。

中国の南シナ海戦略の実現は全力を挙げて阻止する必要があり、安全保障のみならず、政治・経済を含む多岐にわたる総合的な戦略が不可欠である。

その際に忘れてならないのは、中国の外洋進出を扼する上で絶好の場所に位置する台湾の存在である。

台湾は、太平洋への展開を図る中国海軍を牽制するためだけでなく、中国の南シナ海聖域化を阻止し、米国の核の傘の信頼性維持という面においても掛け替えのないも存在であり、日米同盟にとって対中戦略を策定する上で最大の戦略的価値を有することを見落としてはならない。

日本李登輝友の会はこれまでさまざまな提言を行っており、今年に入ってからは、1月18日に「選挙後の台湾にスムーズな政権移譲を望む」、1月28日には「台湾のTPP加盟を早期に実現せよ」と題する政治・経済に関する緊急提言を行った。本提言はこれらに続く安全保障に関する提言であって、内容は「日米台の安全保障等に関する研究会」において検討した成果をまとめたものであり、2月14日の研究会で採択され、その後、理事会及び総会の承認を得て確定された。

この政策提言は、安倍晋三内閣総理大臣をはじめ衆・参両院議長、外務大臣、防衛大臣などの関係大臣に提出されるとともに日本李登輝友の会のホームページなどで公開される。

日本李登輝友の会「2016政策提言」
中国の覇権的な拡張に対し南シナ海の合同哨戒を直ちに実施せよ

南シナ海は、インド洋と東アジアを結ぶ最短のシーレーンが通り、年間4万隻以上の船舶が航行する世界経済を支える重要な海域であり、同時に西太平洋とインド洋という2つの戦域の間をスイングする米海軍にとっても迅速な機動及び行動の自由を確保する上から極めて重要な海域である。

最近、南シナ海では中国が、国際法を無視した「歴史的根拠」を掲げて南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張しつつ、軍事力を背景に強引な手段で勢力圏の拡大を試み、管轄圏内における外国の艦船・軍用機の自由な航行を制限しようとしていることが南シナ海に緊張をもたらす最大の要因となっている。

「海洋強国を建設」し、「中華民族の偉大な復興」を目指す中国にとって南シナ海は、天然資源の獲得という経済的な必要性もさることながら、米国と肩を並べる超大国となってアジア太平洋地域の覇権を獲得するという国家目標達成のためには、中国海軍の外洋進出ルートの確保及び確実な核報復力の確保の2つが不可欠であり、その戦略上の必要性の比重は遥かに大きい。

スプラトリー(南沙)諸島で中国の人工島の建設工事が確認されたのは2014年初頭であり、その2年後の今年1月、フィアリークロス礁では滑走路に航空機を離発着させる運用試験が実施された。このように南シナ海における軍事拠点化は急速に進展しており、スプラトリー諸島では既に7つの人工島の埋め立てが完了し、現在も基地施設の建設が早いペースで進行中である。これらの状況を放置すれば、航空機の運用施設、整備施設、軍事施設等を備えた軍事拠点の建設が完了し、それに続く軍用機の展開、排他的防空識別圏の設定によって中国の南シナ海内海化が完成するのは間近であろう。このような状況を許してはならない。

南シナ海に展開したSSBNが、弾道ミサイルの射程を延伸して米本土を直接攻撃できるようになれば、これまで米国が維持してきた対中核抑止力の優位性は失われ、同時に米国の「核の傘」の信頼性も失われることとなる。

「核の傘」を前提とする米国の同盟諸国にとって、そのような事態は安全保障政策の基盤が崩れ、米国主導の安全保障体制を根底から揺るがす悪夢である。

昨年9月、ワシントンで行われた米中首脳会談において、オバマ米大統領が南シナ海での人工島建設など中国の一方的な現状変更の試みに強い懸念を示し、軍事施設の建設中止を求めたのに対し、中国の習近平国家主席は一切の譲歩を拒み、「南シナ海は古来、中国の領土である」という従来の主張を繰り返した上に、「軍事施設の建設も中国の主権の範囲である」と主張した。

中国が南シナ海問題で一歩も引くことなく、あくまでも南シナ海への米海軍の自由なアクセスを拒否する方針を変えない以上、外交交渉だけで問題の解決を図ることは困難であると判断したオバマ大統領は、ようやく昨年10月、スプラトリー諸島のスービ礁の12海里以内の海域に米艦を進入航行させ、「航行の自由」作戦実施に踏み切った。

南シナ海問題への対応は、交渉か牽制かという二者択一の問題ではないが、力の裏付けのない対応はいずれも効果がなく、問題の解決は期待できない。

中国の強引な拡張政策に対して外交交渉による解決が期待できない以上、より厳しい行動によって対応する以外に方法は見当たらない。

南シナ海の航行の自由確保が国際社会の一致した意思であることを表明するためにも、交渉より牽制に重点を置いた対応に取り組むべき時期は迫っている。

そのためには、米国だけに任せることなく、沿岸諸国を含めた有志国連合による「航行の自由」作戦を実施し、中国による軍事拠点化の抑止を図ることによって、南シナ海の航行の自由確保が国際社会の一致した意思であることを中国政府及び中国国民に明確に伝えることは、中国に対する抑止を強める上で効果的であろう。

昨年10月以来、米国は単独で3か月に1回の頻度で「航行の自由」作戦を実施しているが、中国は、南シナ海にプレゼンスを維持するとの米国の主張を、挑発的で、正当性がなく、情勢を緊張させるものであると非難しており、力の行使も躊躇しない姿勢である。そのような中国軍が、緊張の高まった洋上で米軍と遭遇した場合、不慮の事態を引き起こす可能性は否定できない。そのためにも有志国連合による合同哨戒は、国際社会の一致した強い意思を中国に明確に示すと同時に、中国の挑発行為を防止するという両面での効果を期待し得る。

南シナ海における有志国連合の結成に向かっては、アジアにおける安全保障体制の基軸である日米同盟がリーダーシップを発揮すべきである。

まず、わが国が率先して航空部隊と水上部隊を米国との合同哨戒に参加させると共に防衛費を大幅に増額し、日米同盟を基軸に日米豪、日米印等の3か国枠組みへと拡大・発展させる方式が最も実現容易であり、将来は3か国枠組みから有志国連合の構築へと進むべきである。

また日米同盟にとって対中戦略上、死活的に重要な位置に存在する台湾との協力は不可欠であり、日米台3か国による安保協力体制構築を急ぐ必要がある。

日本は、台湾との安全保障協力体制の構築のためにも、台湾の法的位置づけを明確にする必要があり、「日台関係基本法」の早期制定は不可欠である。

台湾は最近、日米両国と共通の対潜哨戒機P-3Cシステムを導入したことで、情報交換能力、広域の哨戒能力、対艦攻撃能力等を大幅に向上させている。

台湾に期待されることは、当面、自国の防衛構想に基づく作戦を実施しつつ、日米同盟と緊密な情報交換や作戦調整等を実施するとともに、国防力を大幅に増強して速やかに近代戦遂行能力を獲得することである。

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