2015112811月26日発売の月刊「WiLL」新年特別号で、作家の瀬戸内みなみさんが連載している「わが人生に悔いなし」(第12回)に、台湾の蔡焜燦先生を取り上げています。題して「母国は日本、祖国は台湾」。

この連載は今年2月号で画家の横尾忠則氏を取り上げて始まっていて、バックナンバーを繰ると、これまではすべて日本人で、海外からは蔡先生が初めてのようです。

ただ、蔡先生は常々「18歳まで日本人だった」と言われている台湾を代表する日本語世代ですので、海外初というのもどこか違和感がありますが、それはともかく、12ページにわたる評伝は実によくまとめられていて、その姿が生き生きと描かれ読み応えがあります。

ある宴席での蔡先生の「博覧強記」ぶりを発揮する場面から書き起こされ、昭和2年の出生から公学校時代、陸軍航空学校時代、帰台してからの体育教師時代、実業家としての活躍、そして現在、代表をつとめる台湾歌壇のことは事務局長の三宅教子さんへのインタビューも交えて紹介しています。

また、あまり蔡李明霞夫人のことを人前で話さない蔡先生ですが、夫人とのやり取りも少しだけですが紹介していて、その少しだけの描写が的確に夫人の横顔を伝えています。

昨春、旭日双光章を受章されたときの交流協会台北事務所における授章式での蔡李明霞夫人との写真をはじめ、清水(きよみず)公学校時代や辛亥革命にも参加した清水行之助氏との千鳥ヶ淵でのツーショット、台湾歌壇の光景など、6枚の写真も添えられています。

蔡焜燦先生は年が明けた1月9日には満88歳を迎えられます。かつて2週間毎晩、国賓大飯店で宴席を持ち、さすがに喰い飽きたそうですが、今はそこまではないものの、日本から多くの方が訪台して蔡先生とお会いしています。

いみじくも、蔡先生は『台湾人と日本精神』の「あとがき」の最後の最後に「この書を、台湾の独立建国を待たずして永眠された諸先輩の霊に捧ぐ」と書かれています。蔡先生の志が奈辺にあるかを示しています。

この評伝を執筆した瀬戸内みなみさんも、そこを見逃していません。「蔡が祖国を愛する気持ちは、切ないほどだ。そしてその愛する祖国は、台湾と日本の二つ。愛しているからこそ、蔡の声は聞く人の胸を揺さぶる」と剔抉しています。

ぜひご一読を!

◆月刊「WiLL」新年特大号(11月26日発売、定価820円)