本会メールマガジン『日台共栄』編集長 柚原正敬

12月末、中国を訪問した福田康夫首相は、温家宝・中国首相との日中首脳会談後の共同記者会見で、台湾が3月の総統選と同時に台湾名での国連加盟の是非を問う住民投票を行うことについて、「「緊張が高まることは望んでいない。一方的な現状変更につながっていくのならば、支持できない」との方針を表明、日本政府として初めて台湾の住民投票に対する見解を明らかにした。米国政府も12月21日にライス国務長官が「台湾の公民投票は”挑発的な政策”」と発言し、不支持の姿勢を明らかにした

また、台湾の独立に関して、温首相が福田首相の台湾に関する発言を説明した際、通訳が「福田首相は台湾独立に反対するとの立場を順守、厳守していくと表明した」と紹介したところ、「福田首相が凍り付いた。温首相に気付かれないように右手の人さし指で、目の前の記者席にいた外務省の藪中三十二外務審議官に『資料をよこして』とサイン」、その後、メディアの質問に答えた福田首相は、「最後に『台湾についても、私から日本の立場を申す』と切り出し、『2つの中国という立場はとっていないし、台湾の独立も支持していない』と語り、『独立反対』という表現を『支持しない』に修正してみせた」(産経新聞)という。

首脳会談後、外務省の佐々江賢一郎・アジア大洋州局長は「『支持しない』と『反対』とはニュアンスが異なる。強度に違いがあることは日本人なら理解できるだろう」と説明している。

福田首相が異例とも言える補足説明したことで、台湾の独立問題についてはこれまでの日本政府の立場を踏襲したと言える。

また、住民投票に対しては、確かに「一方的な現状変更につながっていくのならば、支持できない」との前提を設けたことで、発言に含みを持たせた格好になった。

しかし、これは先に紹介した産経新聞「主張」のように、日本は「反対」こそ表明しなかったものの「台湾住民は日本も中国の要求に屈したとみなし、対日不信を強めるだろう。日台関係にも悪影響を及ぼす。台湾海峡の緊張を高める結果にもつながりかねない」のである。

現に温首相が、こうした日本の姿勢を「評価したい」と語ったことが、台湾を中国の領土の一部と主張する中国にとって有利に働いたことを証している。

それにしても、今回もまた中国政府は姑息な一面を見せた。温首相はこれまでの日本政府や福田首相の発言内容を知っていながら「福田首相は台湾独立に反対するとの立場を順守、厳守していくと表明した」と発言し、日本が台湾独立に「反対」を表明したと、なし崩し的に認めさせようとしたのである。

日本はすでに台湾に対してノービザ措置、自動車免許の相互承認、天皇誕生日レセプションの開催など、さまざまな場面で、台湾を「統治の実態」として認め、明らかに中国とは別の政策を取っている。

ましてや日本が「台湾は中国の一部」という中国の主張を承認していないことは、日中共同声明に署名して帰国した大平正芳外相が、自民党両院議員総会において、「台湾の領土の帰属の問題で、中国側は中国の領土の不可分の一部と主張し、日本側はそれに対して『理解し、尊重する』とし、承認する立場をとらなかった。つまり従来の自民党政府の態度をそのまま書き込んだわけで、日中両国が永久に一致できない立場をここに表した」と明言していることからも、日本の立場は明確だ。

このような日本政府の従来の立場からすれば、台湾の法的地位にも関わる「独立」に関して「反対」や「不支持」を表明すること自体が踏み込みすぎなのである。同様に、住民票問題についても、「一方的な現状変更につながっていくのならば」という前提は設けたものの、「不支持」表明は、台湾の民意を封じ込めようとする外国からの内政干渉と謗られても致し方あるまい。

28日、台湾政府は福田首相の訪中についてコメントを発表し、「国民投票は、正当な民主的手続きをもって国際社会に対し台湾の主流の民意を示すものであり、統一か独立かを問うものではなく、海峡両岸の現状を変更するものでもない」と述べた上で、「台湾と日本の関係は密接不可分なものであり、今後も安定した基礎の上に引き続き発展していくものと認識している」と述べた。

日本との信頼関係は崩れていないという台湾政府の穏当な対応によって、出すぎた真似をした日本は救われた感がある。

日本はいつまでも1972年体制に縛られることなく、台湾の現状を認識した上で、日本独自の対応をすべき時期に来ている。