1月26日に台湾団結聯盟の第3代主席に就任した黄昆輝主席(李登輝氏が総統時代に内政部長や行政院大陸委員会主任委員などの要職を歴任)は、先の「壹週刊」に掲載された李登輝前総統のインタビューについて、2月3日付でコメントを発表した。

李登輝前総統発言の真意を伝える的確なコメントかと思われるので、いささか長いがご紹介したい(日本語訳はメールマガジン『日台共栄』編集部)。


「壹週刊」が報道した「李前総統、台独を放棄し、中国資本を引き入れよう」の内容について、黄昆輝・台連主席は先日、メディアの報道が真実ではないとして、事実をはっきりさせるためにコメントを発表した。以下はその要点である。

Q1:どうして李前総統は、「壹週刊」、「TVBS」という所謂統一派のメディアの単独インタビューに応じたのか?

A1:李前総統は、「壹週刊」や「TVBS」のメディアで「台湾はすでに主権が独立した国家である」と発言することは、台湾の主権と主体意識を宣揚させる非常に有意義なやり方だと考えている。李前総統は取材を受けたとき、台湾はすでに主権が独立した国家であり、「新憲法制定」と「台湾正名」で台湾を「正常な国家」にさせると述べている。
われわれはほかのメディアの呼びかけを拒絶しているわけではなく、そのほかのメディアが単独インタビューを申し込んでこなかっただけであり、もし三立や民視などが台連にインタビューの申し入れがあれば、どのような台湾主体意識を宣揚する機会もできるだけやってみたい。

Q2:李前総統と台連は台湾独立を放棄したのか?

A2:李前総統は、「台湾はすでに主権が独立した国家である」と表明している。だから、台湾は独立を追求する必要はなく、台湾独立を放棄するような問題は存在しない。いま最も重要な問題は、国家の正常化問題である。たとえば、われわれは国連加盟国でないことや、憲法、国号、これらはどれも国家が正常化されてはじめて解決できる問題で、独立を追求するものではない。すでに独立した国家なのだから、これ以上追求する必要はないのである。李総統は「台湾正名」と「新憲法制定」を堅持している。民進党はこれを支持しないのか? この路線は果たして間違っているだろうか?
以前、民進党の党綱、台湾前途決議文も台湾は主権が独立した国家であると言ってなかったか? どうして彼らが言うのはよくて、われわれが言うことはいけないのか。阿扁は「正名、制憲」は自分にはできない、と言った。どうして独立派や台湾社は批判しないのか?

Q3:どのように台湾を正常な国家にさせるのか?

A3:いま、歴史が残した問題と、国際現実によって、台湾はまだ正常な国家ではない。憲法から言えば、過去の憲法は台湾のために存在しているものではない。改正する必要があるかなど問題がある。われわれは、これらの将来の問題に対して、いまチャンスがあれば一歩一歩やっていく。ほかの党のように、「台湾正名」や「新憲法制定」はスローガンだけで実際には何もやっていないのとは違う。
李前総統は、われわれは言うだけではダメだ。一歩一歩真剣に「台湾正名」「新憲法制定」を推し進め、台湾の国家正常化を追求しなければならない、と表明している。

Q4:李総統はどうして台湾独立を強調するなと主張するのか?

A4:台湾はすでに独立した主権をもった国家だと前面に言う以外に、独立を主張したり統一を追求することは、台湾がすでに民主化した事実を軽く見ていることになる。民主化したあとの台湾は、政権はすべて国民から選ばれたものであり、みなこの制度の下で自分自身の政権を成立させることができる。独立や統一を争議する必要はなく、主張すれば逆に台湾はずっと不安定な状況になってしまう。台湾はもともと統一独立の理想を権力闘争にする必要はなく、ここ7,8年の庶民たちの生活はどうなのか、民生と経済問題は一向に改善せず、これは時間をかけて解決しなくてよいものなのか?

台湾がいま一番重要なのは、統一・独立を闘争の手段にすることではない。「新時代の台湾人」は外省人、台湾人の問題はない。台湾は民主化された国家であり、どの政党も自分の政権を成立させるチャンスがある。民衆が投票することによって、その政権が成立するのである。台湾に種族の問題はなく、いまある問題は、アイデンティティーが欠乏していることだ。統一や独立などは、政治闘争、権力闘争の方法になってしまっている。

どのようにして、アイデンティティーを強化していくか、李総統は「『私は誰なのか、台湾は何なのか』を考えるべきであり、統一独立の闘争のためではない」と考えている。一般の台湾人の心の中にある、自分のアイデンティティーと国家アイデンティティーに対して、ひとつの共同の価値観と基礎を打ち立てる必要がある。この観点から見ると、台湾と中国の関係は、文化上の感情が異なるところがある。文化は生活であり、生活が違うではないか。われわれは自分たちの文化を打ち立てる努力をするべきなのだ。

台湾の現在の抱える問題は民主化によるべきであり、エスニック対立は社会の役に立たず、必要ないことだ。

Q5:どのように台湾と中国大陸との関係を見ているのか?

A5:李前総統は「それぞれ別の国である」とは言っていないし、「二国論」も言ったことはない。「中国大陸と台湾の関係は、非常に特殊な、国と国の関係である」この言い方は非常に重要であり、特殊という言葉にはいろんな大きな意味を含んでいる。なぜなら、台湾と大陸との間には、国際関係から見て歴史上前例のないものであるからだ。このような判例のない状況下で、われわれは正常な状況を求めることが目標であり、だから「特殊な国と国の関係」と言ったのであり、「二国論」ではない。「二国論」とはあのとき一部の人が言ったもので、記者も「二国論」と簡略化してしまったのだ。事実上、李前総統が指しているのは「特殊な国と国の関係」である。

Q6:李前総統は本当に中国に行ってみたいと思っているのか?

A6:李前総統は、自分から中国へ行ってみたいと言ったわけではなく、その必要もなく、いまはそのようなことはしないことを強調している。

李前総統は、身体状況のほか、中国を訪問するにあたっては、ほかにもたくさん現実的な状況を考慮しなければならず、いまの段階では、個人的な意欲もなければ、現実的な政治配慮や両岸環境からして、そのような可能性は存在しない。壹週刊の記者は、取材に来たときに何度か「中国を訪問したくないか?」と質問し、李前総統は「彼らは私に来てほしいだろう、でもいまは情勢が許さないでしょうが!」と答えたが、さらに記者がまた聞いてくるので、李前総統は半分冗談で「私が行けば捕まえられるかな?」と話した。孔子を巡る旅については、壹週刊の記者が李前総統に「ほかに何かやりたいことはないか」と質問し、日本を訪問したいのではないかという話になったので、李前総統は日本の奥の細道と、エジプトと、孔子を巡る旅を挙げたのであり、中国を訪問することとは関係ない。

Q7:李前総統はどうして中国人の台湾観光の開放を主張するのか?

A7:李前総統と台連の主張は一貫している。両岸の国民の交流は、主権対等の前提の下、中国人観光客は桃園国際空港から入国すること。絶対に(国内線の)松山空港を使わせない。台湾は中国人観光客に台湾の国家主権と管轄権を見せつけることで、十分中国に向けて台湾の民主化の成果を宣伝することができると考えている。

Q8:李前総統は、どのように両岸経済貿易政策を見ているのか?

A8:国と国の対等な関係の下、李前総統は中国と経済関係を相互に通すことには賛成している。近年、台湾の中国投資は大きくなってきており、台湾の資金は流出してばかりで、台湾経済の低迷を招いた。

李前総統は、台湾経済の問題は、台湾への投資率を上げなければならず、政府は早急に産業投資を奨励して投資を呼び込むのみならず、中国との経済・貿易関係についても、李前総統は、「両岸が国と国の関係の下なら、両岸とは何を話してもよい、恐れなくてよい。いまわれわれはWTOというプラットホームがあり、われわれと中国は平等なメンバーであり、台連はWTOにおいて、すでに二回成功例がある。タオル産業の議題にしても、国と国の立場で、中国と話し合いを行なった。

政府はどうしてWTOを使って中国と経済・貿易交流を進めようとせず、民間を通して話し合いをさせるのか。WTOでは、中国は話し合いを拒否できない。だから、これこそわれわれは使いたいのであり、いまの政府はWTOが怖くて怖くて仕方なく、何も話せないのとはわけが違う。

ただし、政府がもし、両岸交流を有効管理できず、国と国の対等関係も維持できなければ、台連は一貫して経済・貿易や観光でも、国家主権を貶める交流には反対する。

Q9:台連の「中間左寄り」路線とは何か?

A9:台連の「中間左寄り」路線は、政治上の統一独立とは関係がない。社会経済上、中産階級と弱者を重視し、少数の財団の利益のためには傾斜せず、いわゆる右派とは区別する。この何年か経済は衰退し、不景気はかなりひどく、政府は動こうとしない。事実上、国民の貧困はとても厳しい状態にあり、この問題はすでにはっきりしており、すぐに対処することが必要であり、対策を提示してこそ、社会が安定する。

これらの問題の政策は政府がやるべきことであり、政府だけがこの問題を処理できる。台連の中間路線にできることは建議であり、執行する権力はない。カギは政府が握っている。

台連は統一独立問題で立場を移動させたのではなく、社会政策で移動しただけだ。社会政策で中産階級と弱者を重視する点で「中間左寄り」としたのである。

Q10:李前総統の立場は終始一貫しているか? それとも変わったのか?

A10:李登輝前総統は、発表した意見や個人行動、また総統の時代に行ったことは、何も矛盾していない。李登輝は変わったと言う人がいるが、李前総統は、李登輝が変わったのではなく、社会の変化に合わせたのだとしている。
この社会変化の状況はどの問題を重要視すべきで、先に処理すべきか。それは庶民を最優先に考え、庶民が最も切迫したことを優先して処理すべきなのである。これは一貫していることだ。李前総統は、台湾の国民たちは恨みあうのはやめて、もっと平和に、もっと忍耐強く、お互い合わせて、安定した社会の国家にしようと呼びかけている。