1月31日に台湾の「壹週刊」に掲載された李登輝前総統インタビューを巡っては、台湾国内はもとより、日本でも「大幅な政策転換を表明」などと報道されたことで大きな波紋を呼んだ。

それに対して本会メールマガジン『日台共栄』は2月3日に「李登輝前総統は微塵もぶれていない。その見識の深さに新聞記者の理解がついていけないか、色眼鏡で見ているかのいずれかだ」と指摘し、また6日には、李登輝前総統の一番の理解者である黄昆輝・台湾団結聯盟主席のコメントも邦訳して掲載して理解を促した。

そして12日、産経新聞が李登輝前総統に真意を質すべく会見した内容を掲載した。「本音を言うと、すべて計算のうちだ」との発言が全てを象徴しているが、「壹週刊」という香港系の大衆紙を媒体に選んだことを含めて、李登輝前総統の真意は台湾を救おうという無私に徹した発言だったことが判明し、改めて報道する側の理解不足が浮き彫りになった形だ。

発言のキーワードは「台湾再生」だ。陳水扁総統と与党である民進党が独立をテーマに国民党と権力争いをし続けることで、政治の空白や国民不在の現状を招いたことを指摘し、台湾再生のための基本方向を示したということだろう。短いインタビューだが、強靭な意志がそのまま伝わってくるインタビューだ。「中国資本受け入れ」や「中道左派」などの言葉に囚われず、その真意を汲み取るべくじっくり読んでいただきたい。


台湾の李登輝前総統(84)は産経新聞と会見し、「(独立か統一かを問う)統独論争は意味がない」と述べた上で、これまで連合を組んできた与党・民主進歩党と一線を画す考えを初めて明らかにした。今後、自らが後ろ盾となってきた台湾団結連盟(台連)を再編成し、中道勢力の結集による「民主台湾」の再生を目指すという。

現政権を支える一角が崩れることで年末の立法委員選挙、来年3月の次期総統選に大きな影響を与えるのは必至だ。

1月31日発売の香港系週刊誌「壹週刊」は、李氏のインタビュー記事を「独立放棄」「大陸を訪問したい」などの衝撃的な見出しで伝えた。このため、内外の独立派の間に動揺が広がり、一部では李氏から離反する動きも出始めている。

こうした動きに対し、李氏は「台湾はすでに主権独立国家。今さら独立の追求は後退だ」と反論し、「今は独立した主権国家として不足する要件として憲法制定などをどうやっていくかを考えるべきだ」と主張した。

台湾の李登輝前総統との一問一答は次の通り。

━ 「独立放棄」「中国資本を受け入れろ」「大陸を訪問したい」。香港系週刊誌・壹週刊は刺激的な見出しを掲げた

「タイトルと私の発言は全く食い違っているが、3つの指摘の背景には民主化後退への危惧(きぐ)がある。経済停滞が貧富格差の拡大を招き、失業者も増えている。にもかかわらず、今の政権は台湾独立をめぐって国民党との権力闘争に明け暮れ、人々の生活を顧みない。情けないなあ。原因は経済政策の失敗で、今大切なことはそれをどう修正するかだ。だから無意味な闘争はやめろ、といった」

━ 独立派の反発と困惑を招いている

「徐々にわかってくる。独立を宣言すれば中国大陸はたたきに来るし、アメリカや日本も困る。そもそも私は台湾はすでに民主的な独立国家であるという立場だ。したがって、独立を叫ぶ必要はなく、重要なのは『国家の正常化』であり、問題は『民主国家』としての不足要件をどう補充するかだ。例えば新憲法を制定したくても、法的なハードルは高く、また権力闘争が与野党対立を招いた結果、立法院(国会)で国民党の協力を得られない。政権は改憲問題を口にするが、非現実的な空論を並べて人民を欺くなといいたい」

━ 「中国資本の受け入れ」発言の真意は?

「大陸投資を引き締めた私の政策に対し、今の政権は積極開放をやった。この結果、対大陸総投資額は台湾のGNP(国民総生産)の約8割となって、金も技術も出ていくばかり。どうするのか。一方通行の投資からもうけた金を持ち帰る双方向関係をつくるしかない。政権は中国資本の受け入れが怖いというが、その枠組みを作るのは政治の仕事だ。台湾の凋落(ちょうらく)は中国の戦略にはまっただけではなく、台湾指導部の能力の問題でもある」

━ 自身の訪中問題にも言及があった

「一生涯で行ってみたい場所が4つある、と言ったまでだ。やはり日本の『奥の細道』、そして『出エジプト記』、孔子のたどった道程とシルクロード。共産党が支配する中国に行きたいという意味ではない。少なくとも今、大陸訪問する考えも、必要もない。ただ、胡錦濤(中国共産党総書記)は江沢民(同党前総書記)とは少し違う。私の専門は農業で彼は水利出身。技術畑出身者の彼は言葉こそ少ないが、決断すればキチッとやる。少し怖いところがあるな。大陸の指導者が何を考えているかを知ることが大切だ。台湾は内輪のけんかをしている場合じゃない」

━ 「壹週刊」はタイトルで人々に曲解を与えていると

「批判をするつもりはないが、本音を言うと、すべて計算のうちだ。騒ぎになればメディアが集まり、真意はこうだと世論を喚起できるじゃないか(笑)」

━ 攻めに転じるのろしを上げた?

「そう、民進党への宣戦布告ともいえる。政権はレームダック(死に体)化し、将来の総統候補までがそれにしがみつくばかりで、政権交代から7年間、何もしなかったのだから。これまで(李氏が推す)台湾団結連盟(台連)は民進党の付属と思われてきたが、これからは違いますよ。どんなに頑固といわれようと私は自分の考え方を貫く。台湾再生のためにやらざるを得ないのだから」

━ 台連の今後は

「1月に就任した黄昆輝主席の下で生まれ変わる。2月中に綱領を全面刷新し、3月は公募で党名も変える。直面する課題は雑兵の処分だ。不正をやった者は除名にし、若い新鮮な血液と入れ替える。目指す方向は中道左派。絡みに絡んだ政治の糸はぶった切り、政治の混乱にあきれ果てた中間層を取り込む。個人や政党の思惑を捨て、台湾の主体性を軸とする民主台湾を取り戻す」