昨日(7月17日)は、昨年亡くなられた蔡焜燦先生のご命日だった。昨年の7月17日、日本は「海の日」で休日だったが、この日は午前中に「日米台の安全保障等に関する研究会」があり、本郷の本会事務所に戻ったときに台湾の知人から「蔡先生が亡くなられたようだ」との一報をいただいた。

まさかと思いつつ、すぐ台北のご自宅に電話をすると、ご子息が出られ「そうなんです。今朝、眠るように亡くなりました」とのこと。一瞬にして周りの風景が白っぽくなるような感覚にとらわれたことを思い出す。

「台湾歌壇」代表だった蔡焜燦先生は多くの和歌を詠まれたが、4月発行の『台湾歌壇』第26集に「フォルモサの血ぞ」と題して発表された20首がまとめて発表された最後の歌だった。

創立50周年記念特集号と銘打ち、396ページにおよぶ『台湾歌壇』第26集の巻頭言に、蔡先生は歌壇代表として「50年は気の遠くなるほどの歳月だ」と記し、「私たちは日本の伝統的な和歌を、その和歌の精神を、忘れる事無く、過酷な台湾の境遇に耐えつつも脈々と詠い続けてきました」とも記された。蔡先生ばかりでなく、台湾で和歌を詠み続けて来られた方々の本音だ。

第26集に発表された20首をご紹介し、蔡焜燦先生を偲ぶよすがとしたい。


フォルモサの血ぞ  蔡 焜燦

【『台湾歌壇』第26集 2017年4月】

弟よ涙浮かべて「兄さん」と呼びし汝が顔永久に忘れじ

教へ子の訃報の届く曇り空せめて晴れてよ陽の照り賜れ

御祖より流れ継ぎ来しわが血潮漢にはあらずフォルモサの血ぞ

学び舎に祖国を思ふこども等よ意気高らかなる心の愛し

いざ子らよ嘘つき騙り唐人の悪しざま学ぶな潔き径ゆけ

中学の孫の詠みたる春の歌二人で喜ぶ国際電話

愛しき文読み終へ心の奮ひ立ち筆たぐりよせ喜びを詠む

わらべ歌友と歌ひしふるさとの畷(なはて)づたひの風清々し

わが母校我を育てし思ひ出の数々のこと忘れがたかり

あさみどり見渡す限り澄みわたる我がふるさとの海山愛し

蓬莱のわが同胞よ国民よ自力で戦へ子孫のために

若草山一気に駆くる汝を見つつわれも駆けたり軍事演習

敗戦の年の丹波の美山にて松茸採りしを思ひ出づ今も

京美山紅葉色映え山あひで炭を焼きし日六十五年前

京美山満山紅葉の山間の藁葺きの家ただに懐かし

日の本の若き防人健気にも原発修復に命厭はず

地震津波救済に励む自衛隊君らの誠は大和の誇り

災民に言葉を賜ふ大帝日の本の民幸せなるかな

同胞よ祖国を護るこの心起ちて示せよ世界の国に

五月雨にけぶる山々ながめつつ愛しき祖国のゆくすゑ思ふ