昨年末、本会HPでは「2017年の日台交流」を掲載し、昨年は─昨年の最良の関係をさらに深めた1年だったのではないかと総括した。

日台間の交流の深度を示す指標として、本誌では姉妹都市や友好都市などの都市間提携を紹介してきたが、昨年の16件は過去最高の姉妹都市提携数だった。また、文部科学省が6月に発表した「高等学校等における国際交流等の状況について」では、海外修学旅行先として台湾へは3万5,775人と初めて3万人を超え、アメリカへの3万8,453人に次いで2位に躍り出たことも日台間の交流深度をよく現している。

そこで、昨年1年間に日台間で結ばれた鉄道提携や議会協定、事業提携、学術文化交流協定などを具体的に紹介した次第だ。

◆2017年の日台交流 ─ 昨年の「最良の関係」をさらに深めた1年

もちろん、日台間で実現できていないことはまだ山のように残っていることも事実だ。本会が2012年から発表してきている「政策提言」は、安全保障問題を主なテーマとしてその実現を期して政府に働きかけている一例だ。緊急提言を除いてこれまで公表してきた「政策提言」は下記のとおり。

・2012年「集団的自衛権に関する現行憲法解釈を修正せよ」
・2012年「台湾との自由貿易協定(FTA)を早期に締結せよ」
・2013年「我が国の外交・安全保障政策推進のため『日台関係基本法』を早急に制定せよ」
・2015年「新たな対中戦略の策定を急げ─『サラミ・スライス戦術』で勢力圏の拡大を図る中国」
・2016年「中国の覇権的な拡張に対し南シナ海の合同哨戒を直ちに実施せよ」

上記の提言で、一部なりとも実現したのは集団的自衛権に関してのみで、台湾との自由貿易協定(FTA)締結をはじめいずれも実現していない。

ジャーナリストの舛友雄大(ますとも・たけひろ)氏は、日本は「台湾フィーバー」で盛り上がっているようだが、それに「見合うほど、日台関係は深化しているのだろうか」と疑問を投げかけ、日本にも台湾にも戦略的な価値が高い「日台経済連携協定(EPA)」が暗礁に乗り上げている現状を指摘している。

舛友氏の指摘は、2015年11月に日本と台湾がすでにEPAの内容とされる「日台租税協定」(日台民間租税取決め)を締結していることや、昨年11月には「税関業務協力・相互援助協定」を締結していることなどに言及していないため、いささか飛躍的な印象は免れないものの、日台経済連携協定が日台間の重要事項であることは間違いない。

そのために、日本政府の急務は「台湾での知日派育成」であり、台湾海峡のシーレーンを確保することは日本の国益に合致するのだから「長期的には安全保障面での協力が望まれる」とも指摘する。

日本もさることながら、実は台湾政府内にも知日派の台湾人外交官の早期育成を主張する声があり、台湾政府高官も安全保障面での日台協力の必要性を指摘している。その点からも、舛友氏の指摘は今後の日台関係のポイントとなる重要な指摘であると言えよう。


良好に見える日台関係だが実は懸案山積だ 自由貿易協定は足踏み状態になっている

舛友雄大(ジャーナリスト)

【東洋経済ONLINE:2018年1月14日】

ここ数年、日本では「台湾フィーバー」が続いている。日本人に人気の旅行先として台湾が上位にすっかり定着した。また、東京で台湾祭りが開かれると大盛況になり、小籠包やタピオカミルクティーの店には長蛇の列ができる。さらに、中華民国の建国記念日を祝うレセプションには代理を含めて100人以上の国会議員が姿を見せるようになった。

とにもかくにも台湾が大人気だ。そのきっかけは、2011年の東日本大震災の際に台湾人が200億円以上の寄付をしてくれたことだった。

だが、このような日本における対台湾感情の改善に見合うほど、日台関係は深化しているのだろうか。

◆断交以来初めて副大臣級の訪台が実現

2016年、台湾では日本に対して融和的な民進党出身の蔡英文氏が総統に当選した。時を同じくして、日本では戦後最も親台的な首相の一人である安倍晋三首相が政権を維持しており、同年夏に実弟である岸信夫氏が外務副大臣に就任したときには、台湾政策のより一層の推進が図られるかに思えた。日台関係に詳しい中華民国相撲協会の李明峻理事長は次の台湾総統選挙までの4年間を「日台黄金機遇期」と位置付けたものだった。

実際、日台関係には象徴的な進展が見られた。昨年1月、日本は対台湾窓口機関の「日本交流協会」をより具体的な「日本台湾交流協会」に改称、続いて台湾側のカウンターパートである「亜東関係協会」も同様に「台湾日本関係協会」へと名称変更した。同年3月には赤間二郎総務副大臣(当時)が訪台し、1972年の日台断交以来初めて副大臣級の訪台が実現した。

日台の外交官によると、これらの動きは中国が厳重な抗議をしないように外交的なアレンジが施されていた。そもそも、他の主要国の窓口機関は以前から「台北」という地名を含む名称を使っていたし、副大臣級の訪台も実現させていたのだ。

「マイナスからゼロへの改善に過ぎない」との見方が双方で支配的だ。日本としては、1972年日中共同声明で示された台湾が中国の領土の不可分の一部であるという中国の立場を「十分理解し、尊重する」という立場を変えるつもりはない。

◆日台経済連携協定は暗礁に

一方で、日台間で唯一実現可能で重要な日台経済連携協定(EPA)は暗礁に乗り上げている。

その大きなボトルネックが台湾での福島県産などの食品の輸入規制だ。2015年に台湾がこの規制を緩和どころか強化した時、日本側は「科学的な根拠のない措置」だとして反発した。台湾がこの規制をなかなか解除しないことに日本政府は苛立ちを覚え、台湾が自由貿易原則を守るつもりがあるのかどうか、そのこと自体が疑われている。

この日台EPAは日本より台湾に多くの恩恵をもたらす。関税が撤廃されてもされなくても、日本の工業製品は台湾で売れ続くだろうが、台湾からマンゴーやパイナップルが安価に流入するとなると日本の農家にとっては打撃となる。日台EPAを通すとなると、日本側は外交的にも大きな代償を払うことになる。

北京政府の怒りを買わないように、シンガポールやニュージーランドは台湾との自由貿易協定に署名する前に、中国との協定に署名していた。だが、日本はまだ中国と自由貿易協定を結んではいない。台湾側は協定の中で、台湾が国家であるというニュアンスの強い「テリトリー」や「アグリーメント」という文言が入ることを望んでいる。

次に、輸入規制の問題を台湾側から考えてみよう。台湾で「核食」と呼ばれるこの問題はあらゆる意味で敏感な話題だ。ここ数年、台湾では食品安全関連のスキャンダルが続発していることがまず根底にある。また、2016年に計画されていた関連の公聴会は野党・国民党の抵抗で流れてしまったように、政治化されやすい議題でもある。さらに、蔡英文がひまわり学生運動のボトムアップ的なアプローチを是認したことも、彼女がこの問題で民意を無視して規制撤廃を決断できない遠因となっている可能性がある。

時間が経つにつれ、問題解決の機運はどんどん薄れていくだろう。日中平和友好条約締結40周年を迎える今年は両国の首脳相互訪問も予想され、大幅な関係改善の兆しがあり、対台関係をグレードアップするのは難しくなってくる。台湾側に目を向けると、2020年総統選挙の前哨戦である地方選挙が年末に迫っており、蔡総統による決断の政治的コストは上がっていく。

東京大学で国際政治を研究する松田康博教授は、「日台EPAについての議論を再開するために、台湾は2016年のうちに食品規制を解くべきだった」と語る。

日台EPAの戦略的な意味は大きい。日本は台湾にとって第3の貿易相手国で、このEPAが成立していれば、日本が推進中のCPTPPに台湾が第2陣で加わるというシナリオは描きやすかった。台湾与党・民進党の蕭美琴立法委員は台湾が地域統合から排除されると、台湾の経済的生存に非常に不利だ、と話す。そうした状況で「(日台EPAは)他の国にとっての範例となり、メッセージとなる」とその重要性を強調する。

こうして見ると分かる通り、蔡英文政権誕生以降、日台関係の実質的な進展はほとんどなかったと言っていい。実は馬英九政権時代の方が日台関係が前進していた、と多くの関係者は言う。確かに、世間を驚かせた2013年の日台漁業協定は記憶に新しい。馬英九は中台両岸関係をうまく管理していたので、中国政府は馬英九政権が日本と関係強化をある程度許容していた。逆に、今の中国政府は台湾独立を志向する蔡英文政権に圧力をちらつかせている。

◆知日派育成が日本政府の急務に

他にも日台関係には懸念がある。日本の植民地世代に日本語を話していた台湾の人々が続々とこの世を去っており、台湾には昔ほど深い日本理解がなくなってきている。そのため、台湾での知日派育成が日本政府の急務となっている。

台湾における中台統一派の過激化も心配のタネだ。終戦の日に反日デモを行っている他、日本人技師・八田與一の銅像や神社跡のこま犬を損壊した疑いが濃厚だ。こうした勢力が、日本企業や日本人に危害を加えるようになると、日本人の台湾に対する好感度は下がらざるを得ない。

また、長期的には安全保障面での協力が望まれる。台湾は地政学的に重要な位置にあり、南シナ海へつながる台湾海峡のシーレーンを確保することは日本の国益に合致する。だが、上記の「1972年」ラインがある以上、表立った協力は現実的でなく、一部の保守政治家が主張する日本版「台湾関係法」制定の目処は全く立っていない。

表面的なお互いの親近感と違い、日台関係はなかなか進展しない。そして、その親台感情も永遠ではないかもしれない。

「日本台湾祭り」の主催者で在日歴30年の銭妙玲・台湾新聞社社主は、台湾文化をさらに伝播していく必要性を痛切に感じている。「ブームはいつか冷めるもの。中国は国も大きく、人も多く、経済も発展している。いつまで台湾が日本人に愛し続けられるかは分からない」。

日台関係には、多くの懸案が山積しているのである。

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舛友雄大(ますとも・たけひろ)ジャーナリスト
2014年から2016年まで、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院アジア・グローバリゼーション研究所研究員。カリフォルニア大学サンディエゴ校で国際関係学修士号取得後、2010年、調査報道を得意とする中国の財新メディアで北東アジアを中心とする国際ニュースを担当し、中国語で記事を執筆。今の研究対象は中国と東南アジアとの関係、アジア太平洋地域のマクロ金融など。これまでに『東洋経済』、『ザ・ストレイツタイムズ』、『ニッケイ・アジア・レビュー』などに記事を寄稿。