12月20日付の産経新聞「産経抄」でもこの問題が取り上げられた

12月22日、岩波書店はホームページに「読者の皆様へ――『広辞苑 第六版』「台湾」に関連する項目の記述について」を掲載した。

産経新聞や毎日新聞が台北駐日経済文化代表処や諸団体から『広辞苑』の記述訂正を求められていると報じたことに対し「小社では、『広辞苑』のこれらの記述を誤りであるとは考えておりません」とする見解を発表した。

この見解に対し、岩波書店に「中華民国台湾は独立主権国家であり、断じて中華人民共和国の一部ではない」と抗議して内容の修正を求めていた台北駐日経済文化代表処は、張仁久・副代表が「代表処が提起した問題に答えていない」と述べ、遺憾の意を表明した(中央通信社)と伝えられている。

岩波は『広辞苑』第6版の1刷では「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がこれに帰属することを承認」と記述していたが、2刷で「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と承認し、台湾がこれに帰属することを実質的に認め」と訂正したという。

岩波側の見解は、日本は台湾が中華人民共和国に帰属することを「承認」ではなく「実質的に認め」たというものだ。

しかし、日本は日中共同声明において「理解し、尊重」だけで「承認」しているわけではないのはもちろんのことであり、その後に続く、カイロ宣言の条項は履行さるべきものとする「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」という文言があるにしても、台湾を「中華民国に返還」した事実はない。

それは、1964年2月の予算委員会で池田勇人総理が「台湾は中華民国のものではございません」と答弁していることに明瞭に現れている。日本が台湾を中華民国に返還していたら、サンフランシスコ講和会議にも出席した一国の総理がこのような発言をするわけがない。ましてや、中華民国の承継国家という立場をとる中華人民共和国に返還した事実もない。

それとともに、台湾が中華人民共和国に「帰属」するとするのは、歴史的経緯からも現状から考えても無理がある。まさか岩波書店は、1997年7月に李登輝総統が「中国と台湾の関係は特殊な国と国との関係」と表明したことを忘れたわけではあるまい。

さらに、日本は現在、台湾を「非政府間の実務関係」と位置付け、台湾と漁業協定や租税協定を結んでいる。台湾では日本の在外公館なら必ず開く天皇陛下御誕生日祝賀レセプションも台湾で開催している。ほぼ独立国と同じ対応を取っているのが現状だ。

これでも岩波書店は、日本が「台湾がこれに帰属することを実質的に認め」ているというのだろうか。

それにしても、岩波書店は「承認」から「実質的に認め」へ訂正したことをもって「訂正」したと言いたいようだが、なんとも姑息な言い逃れだ。これを詭弁と言わずしてなにを詭弁というのか。

また、岩波書店に突き付けられていた訂正要求の中には「1945年日本の敗戦によって中国に復帰」もあった。しかし、12月22日のホームページでは一言も触れていない。都合の悪いことには答えない、姑息この上ない見解だ。岩波書店から出版人の良心は失せた。

毎日新聞は「来年1月に刊行される最新版『第7版』もこのままの表記で刊行される見通し」と伝えている。本会としてはこの第7版の記述を確認し、厳正に対応したい。


岩波「誤りとは考えない」 第7版でも「台湾省」

【毎日新聞:2017年12月22日】

【台北・福岡静哉】国語辞典「広辞苑」の中国に関する項目で台湾が中国の一部と紹介され、台湾が修正を要求している問題で、発行元の岩波書店は22日、「誤りであるとは考えていない」との見解を発表した。「『中華人民共和国』の項目に付した地図であり、同国が示している行政区分を記載した」ことを理由としている。 

広辞苑第6版は「中華人民共和国」の項目で、中国の各省と並べて「台湾省」と表記。中国地図でも台湾を他の省と同じ色に塗っている。来年1月に刊行される最新版「第7版」もこのままの表記で刊行される見通し。 

台北駐日経済文化代表処は22日、毎日新聞の取材に「断じて中華人民共和国の一部ではない」と改めて強調した。