群馬県前橋市に寄贈された羽鳥重郎博士の銅像(上毛新聞の報道より)

奇美実業創業者の許文龍氏は、これまで台湾の発展に尽くした台湾人や日本人を讃えて胸像を制作してきた。台湾人は李登輝総統や鄭南榕など10人で、日本人も後藤新平や新渡戸稲造など10人を数える。

昨年6月ころ、日本人11人目として台湾風土病の撲滅に貢献した医学博士の羽鳥重郎(はとり・じゅうろう)の胸像を自ら制作、出身地である群馬県前橋市に寄贈している。

3月25日、群馬県前橋市において山本龍(やまもと・りゅう)市長や許文龍氏(代理)、羽鳥重郎の子孫など関係者約150人が集い、胸像のお披露目式が行われた。

前橋市から胸像寄贈の件を伝え聞いた李登輝元総統は、このお披露目式に「羽鳥博士の胸像が、ご出身の地においてお披露目されることは羽鳥博士が台湾の医療に大きく貢献されたことを改めて顕彰するとともに、その意義と羽鳥博士の人類愛ともいうべき医療に対する姿勢を後世に伝える契機となりましょう」と羽鳥博士の事績を讃える祝辞をお贈りしている。

この祝辞は式典で配布された資料の中に加えられ、式典の中でも披露された。下記にその全文をご紹介したい。

式典では、山本市長や許文龍氏代理の郭玲玲・奇美博物館副館長、謝長廷代表代理の黄明珠・政務部次長、羽鳥重郎令孫の羽鳥重明氏などが挨拶して羽鳥博士の偉業を讃えるとともに、手島仁・前橋市歴史遺産活用担当参事(本会理事)が「羽鳥重郎を語る─台湾で愛される富士見出身の偉人」と題して講演した。また、頌彦守眞・群馬県台湾総会事務局長の指導により「故郷」「里の秋」「菜の花」を全員で合唱し、羽鳥博士をしのんだ。

この式典には、本会から柚原正敬・事務局長や群馬県支部の山本厚秀・支部長、清水一也・副支部長なども参列した。

なお、前橋市は羽鳥重郎の胸像を、出身地である前橋市富士見町(旧富士見村)の公民館の正面入口に設置。今年2月には、許文龍氏に御礼を申し上げようと山本市長らが台南に住む許文龍氏を訪ねている。

◆羽鳥重郎胸像設置場所:富士見公民館 正面入口(左)
 〒371-0114 群馬県前橋市富士見田島866-1027 TEL:027-288-6111

◆許文龍氏が制作あるいは制作を指示した日本人胸像(11人)
 後藤新平、新渡戸稲造、浜野弥四郎、鳥居信平、八田與一、松木幹一郎、磯永吉、末永仁、新井耕吉郎、羽鳥又男、羽鳥重郎

 *群馬県出身は新井耕吉郎、羽鳥又男、羽鳥重郎
 *参考文献:『日本人、台湾を拓く。』(まどか出版、2013年1月)


「羽鳥重郎博士胸像お披露目式」への祝辞

                                     2017年3月25日

                                        李 登輝

本日、群馬県前橋市富士見町において、当地出身で台湾の衛生・医療行政に多大なる貢献をされた羽鳥重郎博士の胸像がお披露目されるにあたり、心よりお祝い申し上げます。

羽鳥重郎博士は、日本統治下の台湾において、長らく原因不明の風土病として恐れられて来た熱病の原因が、台湾ツツガムシにあることを突き止め、多くの患者が命を救われました。

これは、羽鳥博士が、机の上での研究だけでなく、常に患者と接することで「血の通った医療」を心がけておられたからに他なりません。

こうした羽鳥博士の医療に対する姿勢は、昭和六年、要請に基いて台湾東部の花蓮港にあった診療所を継承したことにも表れています。

当時、台湾東部はまだまだ未開の地であり、そこに医師として赴任するのは多くの困難を受け入れることでもありました。

しかし、羽鳥博士は、そうした医療が遅れた地域に赴任することこそ男子の本懐であるとして勇躍、花蓮港の地へと赴くのです。

羽鳥博士はおよそ十年にわたり、この地で誠心誠意、医療活動にあたられたそうですが、当時の診療所が現在でも古跡として花蓮港の地に残されています。

医師として街の人々から慕われた羽鳥博士の功績が偲ばれるエピソードと言えましょう。

今般、羽鳥博士の胸像が、ご出身の地においてお披露目されることは羽鳥博士が台湾の医療に大きく貢献されたことを改めて顕彰するとともに、その意義と羽鳥博士の人類愛ともいうべき医療に対する姿勢を後世に伝える契機となりましょう。

奇しくも羽鳥博士は、「日本時代最後の台南市長」として知られる羽鳥又男氏のご縁戚でいらっしゃると聞いております。

羽鳥又男市長は戦時下にあっても古都台南の文化財保護に奔走したことで、現在でも地元の人々から敬愛されており、やはり当地にある羽鳥家菩提寺の珊瑚寺に胸像が置かれていることは皆さまもご存知のことと思います。

羽鳥家が輩出した羽鳥重郎博士と羽鳥又男市長は、群馬県が生んだ郷土の偉人であると同時に、台湾に大きく貢献した「台湾の恩人」とも言える存在です。

どうかこのお二人の胸像が、これからも日台友好の象徴として末永く語り継がれることを心より期待しております。

最後になりますが、本日の胸像お披露目式がご盛会となりますことをお祈りし、私のお祝いの言葉といたします。本日は誠におめでとうございます。