20170309-01PHP研究所の月刊「歴史街道」4月号(3月6日発売、定価680円)が台湾総督もつとめた明石元二郎(あかし・もとじろう)について「明石元二郎 奇跡を成し遂げた『熱』と『胆力』」と銘打って総力特集している。

巻頭の論考は、本会前副会長で京大名誉教授の中西輝政氏の「たった一人でロシアを翻弄! 前人未到の工作を成し遂げた人間力」。中西氏は、情報将校だった明石がなぜたった1人で帝政ロシアを震撼させ、その中枢神経を麻痺させることができたのかについて掘り下げ、相手を騙して機密情報を掠め取るというスパイ像とはまったく逆だったと指摘する。

明石工作は、他ならぬロシアがその破壊力を認めたほどだったと述べ、その根底には、明石という明治人は「周囲を惹きつける『ひたむきさ』と、相手の懐に臆することなく飛び込む『胆力』を備え」ていて、相手から「あなたにならば、リスクを承知で教えよう」と信頼される卓抜した人間力があったという。

どのような謀略工作だったかについてはこの特集を読んでいただきたいが、中西氏は明石を含め、兄のように慕った川上操六や明石工作を命じた児玉源太郎など、明治人に通底していたのは「溌剌とした愛国心」だったと強調する。

また、後に台湾総督をつとめた明石が教育に力を入れたのは「台湾の人々も日本人と同じ教育を受けられるようにと願ったからで、合理主義とともに人間愛に溢れるその姿は、『明治人の鑑(かがみ)』と言える」と絶賛している。

明石の台湾総督時代を執筆しているのは片倉佳史氏だ。「台湾の将来のために種子を蒔く…その思いは今も人々に慕われ続けて」と題し、在任期間わずか1年4ヵ月の明石総督が「台湾は東洋の心臓である」をモットーに、日月潭(じつげつたん)水力発電所の建設や鉄道網の拡充、5回に及ぶ地方視察など取り組んだ明石総督の姿を描いている。

台湾関係者にとって気になるのは、明石の墓がなぜ台湾にあるかだろう。これについても片倉氏はどのようにして今の新北市三芝(さんし)に墓が設けられたのかについての経緯を詳述している。

また、明石元二郎令孫の明石元紹(あかし・もとつぐ)氏も「欲がなく、祖国や人々のためにひたすら働き続けた祖父の横顔」を語っている。台湾時代にも言及し、ロシア工作時代や朝鮮総督府時代における人と人の絆については「台湾を抜きには語れません」と述べている。

昨年の5月号は児玉源太郎と台湾を総力特集し、今度は明石元二郎。読み応えのある特集だ。

◆月刊「歴史街道」2017年4月号