WSJ日本語版のサイトより

台湾の総統府は5日、蔡英文総統が4日にアメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の単独インタビューを受けたことを明らかにして、その詳細を公開した。

その「ウォール・ストリート・ジャーナル」は昨日、インタビュー概要について発表、蔡総統が「中国本土が現在の状況について誤解したり判断を誤ったり、台湾の人を圧力で従わせられると思ったりしないよう願っている」「台湾では、どんな政権も市民の意見に反する決定はできない」と述べ、「中国からの圧力には屈しない」「衝突と対立という古い路線には戻らない」と言明したと伝えている。

蔡総統はまた「台中は双方とも、自身が5月に行った就任演説を思い出すべきだ」とも述べたという。本誌では何度か就任演説の重要性について強調してきたが、やはり蔡総統の基本姿勢はこの就任演説に込められていると見ていい(なお、WSJ日本語版のサイトではインタビュー時の動画も見ることができる)


蔡総統、台湾は中国の圧力に屈しない=WSJインタビュー
前提条件なしの対話を中国政府に呼び掛け

【ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ):2016年10月5日 By CHARLES HUTZLER and JENNY W. HSU】

【台北】台湾の蔡英文総統(60)は4日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、中国が強めている圧力に台湾が屈しないと言明する一方、対立を回避すると述べ、中国政府に対話を呼びかけた。

蔡氏は台中関係をリセットする機会を中国政府に提供した形だ。中国はこの数カ月、経済力と外交を駆使して蔡政権の政策や方向性を確かめようとしてきた。蔡氏は、両者が誤解を排除するため、前提条件なしに協議の席に着くべきだとの考えを示した。

蔡氏は「中国本土が現在の状況について誤解したり判断を誤ったり、台湾の人を圧力で従わせられると思ったりしないよう願っている。民主主義社会では、この種の圧力は誰もが感じ取る」とし、「台湾では、どんな政権も市民の意見に反する決定はできない」と話した。

また、台湾経済の中国依存を低減する意向をあらためて表明。双方の経済は補完し合っているというよりも競合していると述べた。台湾にとって安全保障上最も重要なパートナーである米国との関係については、共和党ドナルド・トランプ候補と民主党ヒラリー・クリントン候補のどちらが次期大統領になっても、強固であることは変わらないことを望むと語った。

民主進歩党の蔡氏は選挙で圧勝し、5月に台湾総統に就任した。長らく野党だった同党は過半数議席を獲得している。この政権交代は中国を動揺させ、長らく台湾の与党だった国民党を脇に追いやった。国民党については多くの台湾人が、同党の親中姿勢から恩恵を受ける者は少ないとみていた。

1時間を超えるインタビュー中、蔡氏は本格的な民主主義と中国の複雑な関係に何度か言及した。中国は依然として台湾が自国の一部だと主張している。

法学を専門とする元教授で貿易交渉に携わったこともある蔡氏は、言葉を慎重に選びながらコメント。台中は双方とも、自身が5月に行った就任演説を思い出すべきだと述べた。この演説で蔡氏は、現状を維持し、前政権と中国政府との了解事項を尊重することで、「最大限の柔軟性」に努めるとしていた。

蔡氏は「私たちが過去にした約束は変わっていない。前向きの姿勢も変わっていない。しかし、中国からの圧力には屈しない」とし、「衝突と対立という古い路線には戻らない」と述べた。

◆中国政府による締め出し

だが中国政府は初めから、蔡氏を抑えようとするシグナルを送ってきた。民進党が正式に掲げる台湾独立の方針は、中国にとっては好ましくない。

台湾の小規模なビジネスにとって追い風となっている本土からの団体旅行客は落ち込んでいる。中国政府は、台湾政府との公式連絡ルートを停止したほか、台湾の国際民間航空機関(ICAO)の総会への出席を阻止したのだ。中国政府は直接これらの措置に関連づけてはいないが、これまで、台中が「一つの中国」の原則を確認したとする1992年の合意を蔡氏が認めることを条件に挙げることがあった。

蔡氏は中国政府が好む「92年コンセンサス」という言葉を使うことを拒否しており、インタビューでもその言葉を口にすることを控えた。

香港との比較では、台湾は「主権のある独立した国」だが、香港の人々のように「民主主義、自由、人権」を求めていると話した。

蔡氏の政府そして多くの台湾人が不満なのは、台湾が外交面で相対的に孤立しており、多くの国際機関から締め出されていることだ。これは、中国政府の反対によるところが大きい。直近では、台湾は9月のICAO総会への出席を止められた。2013年に行われた前回の総会には出席していた。

蔡氏は、台湾政府が中国政府に台湾の参加を認めさせようとしたと述べた。いくつかの国が賛成を表明したが、「国際社会の強力な支援が必要だ」としている。

南シナ海について台湾は、中国による領有権主張の大半を無効とした国際仲裁裁判所の7月の判決を拒否し、周辺の多くの政府を驚かせた。中国政府も判決を拒否している。台湾は最大の島を実効支配しており、その主張は理論的には中国政府のそれと似通っている。蔡氏は台湾政府の決定について、不公平感を反映している面もあると説明した。仲裁裁判所は、台湾政府を中国の一部扱いする表現を使ったのだ。

蔡氏は「利害関係者として、私たちは交渉の一部でなければならない。他の権利主張者と同様、参加を認められなくてはならない」と述べた。

経済については、繁栄に向けてイノベーションを促し、貿易と投資を中国から東南アジアや南アジアにシフトする必要があると話した。「他の市場や経済に拡大する方針を政治化する気はない」としている。

中国の習近平国家主席との会談には、臨む準備はあるが、条件がないことが前提だと話した。「意義のある対話を持つ前に政治的な前提条件をつけるのが中国の長年の慣行だ。これが私たちの関係発展を妨げていると思う」としている。