20160916-019月15日の民進党の代表選で蓮舫議員が当選した。これに先立って法務省は14日、「『国籍事務において、台湾出身者に中華人民共和国の法律を適用していない』との見解を発表した」と時事通信は伝えている。

また、産経新聞も法務省見解を伝えるとともに「2006(平成18)年6月14日の衆院法務委員会で、杉浦正健法相(当時)は、民主党(同)の枝野幸男議員の質問に答え、国際私法上、台湾籍の保有者には台湾の法律が適用されることを明言している」と報じている。

蓮舫議員は2004年7月の参議院選挙で初当選しているから、枝野幸男議員(現、民進党幹事長)が国会質問したときはすでに国会議員として2年目を迎えていた。

では、国会議事録ではどのような質疑応答になっていたかを、平成18年6月14日の衆議院法務委員会(第164回国会 法務委員会 第31号)から該当するところを、読みやすさを考慮し漢数字を算用数字に直してご紹介したい。

このときは第3次小泉内閣のときで、法務大臣は弁護士出身の杉浦正健(すぎうら・せいけん)議員。衆院法務委員会では「法の適用に関する通則法」案について審議し、同じく弁護士出身で台湾問題にも関心が深い枝野幸雄議員が質問に立ち、同法案38条の本国法の意義について質疑してい
る。

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○枝野委員

ただ、今38条の規定を御説明いただきましたが、38条を見ても、1項は国籍が2つある、2項は国籍がない、3つ目は国籍のある国の法制度がちょっと特殊であるということですので、いずれにしても、本国法というのは国籍を連結点としている制度であるというのは、条文上、自然な見方ではないかというふうに思っております。

その上で、お尋ねをしたいのは、台湾の皆さん、台湾に住み、あるいは台湾の陳水扁総統の統治下に国籍があるといいますか、この皆さんの本国法はどうなるんでしょうか。

○杉浦国務大臣

台湾の人々につきましては、今までの法例においての解釈があったわけでありますが、本法案によっても、どのように決定するかについては、現行法例どおり、変わるところはございません。

国際私法上、考え方としては複数ございまして、1つは、国際私法においては、外交上の承認のあるなしとは関係なく、中国の状態を2つの国家が存在するものと見て、それぞれの国の国籍法によって二重国籍になる場合には、重国籍者の本国法の決定の問題として処理するという考え方が1つございますし、また、国内に2つの政府が存在して、それぞれの支配地域に独自の法を有する地域的不統一法国類似のものと見まして、本法案38条3項を類推適用するというような考え方もあるわけでございます。

いずれにしても、準拠法の指定は、国際私法においては、私法関係に適用すべき最も適切な法は関係する法のうちどれであるかという観点から決まる問題でございまして、一般に国家または政府に対する外交上の承認の有無とは関係がないと解されておりまして、台湾出身の方については、国際私法上は、台湾において台湾の法が実効性を有している以上、その法が本国法として適用されるということとなり、実務上もそのように取り扱われているというふうに承知しております。

○枝野委員

当然、台湾法が適用されなければいけないと思いますし、また、そのことは国際関係上の国家としての承認ということとは全く別次元で決められる、これも非常に正しいことだというふうに思っております。

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実は蓮舫議員は、二重国籍疑惑の渦中にあった9月8日、朝日新聞台北支局長をつとめたジャーナリストの野嶋剛氏がインタビュアーをつとめたYahoo!ニュース編集部の単独インタビューに対して「(日本と中華民国が断交した)1972年以降、私の国籍は形式上『中国』。中国の国内法では外国籍を取得した者は自動的に(中国籍を)喪失をしているので、二重国籍にはならない」と述べていた。

しかし、時事通信が報じたように、中華民国(台湾)の国籍法では、中華民国籍を放棄するには中華民国当局の許可を必要としている。一方、中華人民共和国(中国)の国籍法は、外国籍取得の時点で自動的に中国籍を失うと定めている。

つまり、蓮舫議員は中華民国籍保持者が日本国籍を取得した場合は、中華人民共和国の法律が適用されると述べたのだった。

しかし、法務省の9月14日発表を待つまでもなく、10年前に同じ政党の先輩議員である枝野議員がすでに政府から「台湾の人々につきましては……現行法例どおり、変わるところはございません」「国際私法上は、台湾において台湾の法が実効性を有している以上、その法が本国法として適用される」という答弁を引き出していたのだった。

つまり、1952年(昭和27年)4月28日に「外国人登録法」が制定され、台湾出身者は中華民国(=中国)の国民とみなされて国籍を「中国」と表記するようになっているが、杉浦法相は、台湾の人々に台湾の法律が適用されることは1952年以降、変わっていないと答弁したのだった。

それは国籍事務においても同じで「台湾出身者に中華人民共和国の法律を適用していない」こともまた変わっていなかった。

しかし、蓮舫議員はつい一週間ほど前に、中華民国籍保持者には中華人民共和国の法律が適用されると述べた。枝野議員の国会質疑を知らなかったのだろうか。

蓮舫議員はまた「日本と台湾は国交がないので、台湾籍を有していたとしても法的に二重国籍だと認定されることもありません」とも述べていた。

しかし、杉浦法相が「準拠法の指定は……国家または政府に対する外交上の承認の有無とは関係がない」と述べ、枝野議員も「当然、(中華民国籍保持者には)台湾法が適用されなければいけないと思いますし、また、そのことは国際関係上の国家としての承認ということとは全く別次元で決められる、これも非常に正しいことだ」と述べているように、国交の有無は関係ない。蓮舫議員の事実誤認と言ってよい。

ただ、蓮舫議員は9月8日時点でさえ「日本と台湾は国交がないので、台湾籍を有していたとしても法的に二重国籍だと認定されることもありません」と発言していたにもかかわらず、なぜ中華民国の国籍法にしたがって中華民国籍放棄の手続きを取ったのか。

中華民国籍の保持者には中華民国の法律が適用される。当時もいまも中華民国籍を保持する、まさに当事者である蓮舫議員がこの国会質疑を知らなかったのだろうか。国会議員として、またジャーナリストとして、知らなかったとか迂闊だったではすまされまい。

この戸籍問題は、蓮舫議員の国会議員としての資質を問う踏絵と言ってよい。中華民国籍を放棄する手続きが終わったら、蓮舫議員の国籍問題が終わるわけではない。蓮舫議員の戸籍に関する今後の発言を注視していきたい。