16日に投開票された台湾総統選挙は、独走状態が伝えられていた民進党候補の蔡英文・陳建仁コンビが大勝。午後4時の投票締切後、即日開票の模様が各テレビ局で伝えられると、蔡候補はのっけから大量リードし情勢を決めた。

午後7時すぎには国民党の朱立倫候補が「国民党は敗れた、皆さん申し訳ありません」と敗北宣言。最終的な各候補の得票数は下記の通り(中央選挙管理委員会の発表による)。

蔡英文・陳建仁(民進党) 6,894,744票
朱立倫・王玄如(国民党) 3,813,365票
宋楚瑜・徐欣瑩(親民党) 1,576,861票

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勝利宣言で登壇する蔡英文候補(右は陳建仁候補)

また、同時に行われた立法委員選挙でも民進党は28議席増の大躍進、68議席を獲得して法案成立に必要な単独過半数を確保した。

国民党は29議席減の35議席と、党史上初ともいえる惨敗で早くも解党の危機がささやかれている。立法院113議席の3分の1である38議席を下回り、重要法案に関する発言権の確保も難しくなるだろう。

また、民進党とも協力関係にあり第3勢力として期待された時代力量も5議席を確保、親民党の3議席を上回った。

投票率は66.27%で、4年前の74.38%と比べると大きく下がった。事前に蔡英文候補の独走状態が報じられたことで楽観ムードが広がり、投票意欲が低下したことが一因とされている。そのため、投票日前夜の大集会でも、蔡候補が演説のなかで再三再四呼びかけたのは「私に投票してください」ではなく「投票に行ってください」だった。

ただ、夜半になって韓国の多国籍アイドルグループで活躍する台湾人の周子瑜が、テレビ番組のなかで中華民国旗を持っていたことを他の芸能人にネット上で指摘され、批判が拡大していた問題で、芸能事務所が本人の謝罪動画を事務所の公式Youtubeにアップしたことが報じられると情勢が変わり始める。

グループが中国で予定していたコンサートが突如キャンセルされるなど、中国当局による圧力があったのは明らかで、芸能事務所は火消しのために本人の謝罪動画公開を選んだ。

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謝罪する周子瑜

動画のなかでわずか16歳の周子瑜は「私は間違っていました。中国と台湾は一つであり、私は中国人であることに誇りを持っています。皆さんに心から謝罪します」と謝罪。この動画が、若者を中心に中国への反発を招き、ひいては元々若者からの支持率が低い国民党への嫌悪感に拍車をかけたことは否めない。

現役総統の馬英九や朱立倫候補は、選挙戦でずっと「国民党の8年間があったからこそ、両岸関係は安定した。引き続き、中国と良い関係を求めるなら国民党へ一票を!」と訴えてきたからだ。しかし、結局、国民党や馬英九政権が進めてきた両岸政策や「外交休兵」と称した対中外交政策が、ただただ中国の顔色を伺い、中国の要求に唯々諾々と従ってきただけだったということがいみじくも、この周子瑜事件で露わになったからだ。この事件により、特に若者を中心とした層の投票率は一定程度上昇したとみて間違いないだろう。

勝利を確実なものとした民進党の両候補は、午後8時30分から台北市北平東路にある民進党本部前で開かれた国際メディア記者会見に出席。続いて、野外に設置された特設ステージに登壇し、集まった3万人の支持者を前に勝利宣言を行った。勝利宣言には、陳菊、林佳龍、頼清徳をはじめとする民進党籍の現役首長らが勢揃いしたほか、元副総統の呂秀蓮、謝長廷、游錫堃ら「四天王」と称される重鎮も駆けつけた。

蔡英文候補の演説全文は下記の通り。翻訳は本会台北事務所。


お集まりの皆さん、テレビの前の皆さん、ネットライブをご覧の若者の皆さん、台湾の皆さん、こんばんは!

共に選挙戦を戦い抜いた陳建仁博士、選挙本部主任の陳菊市長、そして選挙本部のスタッフの皆さん、お疲れ様でした。嬉しいことに前副総統と前主席も、この歴史的な瞬間のため駆けつけてくれました。

私はこれまで、皆さんの流した涙を笑顔に変えるために全力を尽くすと言い続けてきました。皆さん、私たちはやりとげました。
     
もしまだ皆さんの目にまだ涙が残っているなら、どうか拭ってください、乾かしてください。私たちは喜んで台湾の新しい時代の始まりを迎えようではありませんか。

スタッフから聞いています。皆さんのなかには、お昼からこの場所に座って待っていてくれた人がいることを。皆さん、喜んでもらえましたか。

ここ数年、皆さんが決して私に満足出来ていなかったことは承知しています。時には理性的すぎて、自分の感情を表に出さなすぎたこともありました。でも、今日は、ここでは、皆さんと一緒にこの喜びを分かち合いたいと思います。皆さん、ともに台湾のために歓喜の声をあげようではありませんか。

私が今まさに感じているのは、ともに台湾のため、この重要な仕事を成し遂げたいという思いです。今、私の心は穏やかです。未来への責任が重いことを理解しているからです。皆さん、蔡英文と陳建仁を支持してくれてありがとうございます。民進党を支持してくれてありがとうございます。ここで改めて、民進党を代表し、すべての台湾の皆さんに深く深く感謝申し上げます。

そしてまた、感謝したいのは、私たち台湾人が歴史上三度目の政権交代を成し遂げたことです。私たちは台湾に光を放ったのです。私たちは自身の行動によって、改めて世界に向けて、台湾すなわち民主主義であり、民主主義すなわち台湾ということを知らしめたのです。

私は朱立倫主席と宋楚瑜主席にも感謝したいと思います。私たちは台湾の民主政治において、新たな歴史の1ページを書き加えました。そして私もこの二人の台湾への期待を理解しています。選挙には勝ち負けがあります。しかし、何よりも最も重要なのは民主主義であるということです。今後の台湾の改革に、彼らの協力も必要です。私は誠意をもってお二人の協力を仰ぎたいと思っています。

選挙スタッフの皆さん、後援会の皆さん、ボランティア皆さん、ありがとうございます。家族と過ごす時間の犠牲も厭わず、私とともに戦い抜いてくれました。我がチームは最強のチームでした。皆さんとともに最後まで駆け抜けられたことが、私にとって史上の光栄です。

そして私は特に若いスタッフの皆さんに感謝したいと思います。これまで、私は彼らにずっと伝えたいことがあったのです。民進党はかつて失敗したことがあります。しかし、私は自分に戒めてきました。いつか、スタッフがこの民進党のユニフォームを来て外に出て行くとき、彼らの心が自信と栄誉に満ち足りたものになるようにしなければならないと自分に言い聞かせ続けてきたのです。そして今日、私たちはやり遂げたのです。

続いて、この選挙期間中、金額の大小にかかわらず、寄付をしてくれた皆さんひとりひとりに感謝申し上げます。これによって、民進党は台湾の人々の民進党であるということを改めて認識したのです。

票を投じるのは一日です。しかし、選挙戦は数ヶ月に及び、台湾を変えるために毎日持続して行わなければならないものです。今夜は一緒にこの勝利の喜びに浸りましょう。そして明日太陽が昇るときから、私たちは台湾のために改革の責任を負うのです。

目下、台湾では多くのお年寄りが長期的な介護制度を必要としています。若者たちが公平な住居環境を望んでいます。多くの中小企業が発展するためのチャンスを待っていることを忘れてはなりません。そして、今にも破綻寸前の年金制度に手を差し伸べなくてはなりません。

それよりもさらに忘れてはならないことがあります。台湾海峡の安全、両岸関係の平和と安定は、誰もが期待する願いであり、両岸がともに努力しなければならないということです。 現状維持は、私が台湾の人々と国際社会に対して約束したことです。私は有言実行です。皆さんに保証します。将来、両岸関係を処理する際には、意思疎通を是とし、挑発することも想定外のこともありません。
     
親愛なる台湾人の皆さん、民主主義の勝利は、私たちがともに成し遂げたものです。改革は私たちがともに推し進めるものです。将来、私たちの目の前には多くの挑戦を必要としています。改革の途中には困難もあるでしょう。しかし、どのような苦難であっても、台湾人が決して負けることはないのです。

私たちはすでに改革の第一歩を踏み出しました。お互いに手を取り合って歩みを進めていくのみです。そしてより事由かつ民主的な、よりいっそう繁栄した、正義に支配された台湾がもう目の前まで来ているのです。

2月1日、新しい国会が開会します。民進党は皆さんが関心を持つ法案を優先的に推し進めていきます。改革のエネルギーを最大限発揮するとともに、改革による負の影響を最小限に留めていきます。

民進党は国会で過半数を制しました。民進党だけで過半数を取りました。私たちは皆さんとの約束を必ず実行します。改革を最後まで遂行します。

今回が台湾で初めての国会における与野党交替です。これによって民進党の責任はよりいっそう重くなりました。ここで私は今一度強調したいのです。民進党が国会を独善で支配することはありません。民進党は、広く有権者の皆さんの声に耳を傾けていきます。そして、他のすべての政党とともに、改革を全力で進めていきます。

ここに私は、総統に当選した者として、そして民進党主席として、党の全員に命令します。
謙虚に、謙虚に、とにかく謙虚に。これが私の第一号の命令です。

台湾の人々は、緑も青もなく、政党やエスニック・グループによって分かたれず、ともに国家のために努力する新しい時代を迎えなければなりません。これは私、蔡英文の約束です。蔡英文による保証です。

昨日の夜、選挙戦最後の大集会で、ステージの上から98歳の史明さんがいるのが見えました。あの凍えるような寒い日に、雨に濡れることも厭わず、ステージに近づいて来て私を励ましてくれたのです。史明さんはもう話すのが困難だと聞いていました。それでも史明さんは私に言ったのです。台湾の総統として、堅い堅い信念を持ち、強くあれ、と。

私はここで史明さんに伝えたいのです。私は必ず強くあります。台湾が苦難に直面しても、私は強くあり続けます。蔡英文が強くあれば、台湾の人々も私とともに強くあることができるのです。

台湾は民主自由国家です。この国家の偉大なところは、誰にでも自身の権利を持っていることです。台湾は、国民の自由選択の権利を保障します。そして私は台湾総統として改めて宣言したいのです。何人たりとも、この台湾の自由を尊重しなければならないということを。

今日の選挙結果は、世界に向けて台湾の人々が自由であり、民主的であることを知らしめました。親愛なる台湾の皆さん、新しい時代の始まりです。

「空がどんどん明るくなっていきます。ここにいる皆さんは、夢を守るために、いっそう勇敢になった人たちなのです」

この歌詞にある「人たち」とは私たちのことです。今回の選挙戦によって、私たちはよりいっそう勇敢になったのです。明日から、私たちは引き続き台湾の人々と、次の世代のために努力していきましょう。

改めて、ここにいる友人の皆さんに感謝申し上げます。そしてすべての台湾の人々に感謝したいと思います。

尊厳、団結、自信、これが新しい台湾です。皆さんありがとうございました。

台湾に天のご加護がありますように。ありがとうございました。