台湾・友愛グループ御中

貴台湾・友愛グループより日本放送協会会長宛に送られた「NHKへの抗議と訂正を要望」する書面について、会長に代わって当該番組の責任者として回答させていただきます。皆様方が、戦前日本語による教育を受けた方々を中心に、台湾で日本語を守り育てる活動を続けていらっしゃることはよく存じております。また、これまでのNHKへのご協力に感謝申し上げます。

さて、4月5日(日)夜9時から放送したNHKスペシャル「シリーズ・JAPANデビュー 第1回 アジアの“一等国”」につきましては、放送後、視聴者の皆様から多数のご意見、ご要望を頂戴しました。高い評価をいただきましたが、その一方で、「内容が偏っている」、「事実関係に誤りがある」、「台湾の人たちへのインタビューを恣意的に編集している」などの批判の声も寄せられました。そのため、6月17日、番組のホームページに「説明」のコーナーを設けました。詳細はこの「説明」をご覧いただきたいと思いますが、以下今回の「要望」書にあるご意見に沿いながら、私たちの考えの要点を述べたいと思います。

「日台戦争」、「人間動物園」という用語については、事実関係を多くの資料にあたって調べ、また専門家に取材し、確認を重ねた上で放送しています。

「日台戦争」という用語は、そもそも当時の日本政府が法制度上、武装抵抗に対する鎮圧にとどまらず、「戦争」として認定していたという歴史的事実が前提になっています。

1970年代以降、研究書の中で、「台湾植民地戦争」、「台湾征服戦争」、「台湾占領戦争」といった用語が使われるようになりました。「日台戦争」という用語は、1995年、『日清戦争百年国際シンポジウム』から使われるようになり、台湾に関する歴史研究者や学会で定着してきています。

「人間動物園」とは、西洋列強が、植民地の人間を文明化させていることを宣伝する場所でした。当時の列強には、「一等国」として「文明化の使命」を果たしているという意識がありました。植民地研究の権威で、日本の台湾統治も長年研究してきたスタンフォード大学客員教授のマーク・ピーティー氏は「日本にとって、台湾は、世界の植民地大国に対して、自らの統治能力を見せるショーケースのようなもの」と述べています。台湾領有から15年後に開催された日英博覧会は、日本にとって統治の成果を世界に示す絶好の機会でした。イギリスやフランスは、被統治者の日常の起居動作を見せ物にすることを「人間動物園」と呼んでいました。日本は、イギリスやフランスのこうしたやり方をまねてパイワン族の生活を見せました。

このようなことは、台湾の方々にとっても心地よい事でないことはもちろんですが、当時の状況の中でおきた事実としてあくまで客観的に伝えたものです。

「日本が台湾の近代化に果たした功績」に関しても番組では伝えています。鉄道や港湾などの社会的基盤を整えたこと、後藤新平が「台湾の宝」である樟脳産業を立て直したこと、そしてこの後藤の改革によって樟脳がイギリスに安定的に供給されるようになり、歓迎されていることも当時のイギリス側の資料で伝えています。さらに、台湾総督府が欧米向けに出版した「台湾十年間の進歩」を紹介し、「台湾歳入」、「内地貿易」の金額が急増したことを伝えています。番組では、こうしたことをふまえた上で、台湾を内地と同様に扱う「同化政策」や、台湾人を目本人に変えようという「皇民化政策」といった植民地統治の実態を、一次史料や映像、証言などによって描いたものです。

私たちは今回、台湾の方々が、日本統治時代をどう受け止めていらっしゃるのか、その実態とお気持ちを聞かせていただきたいと思いました。たとえば何徳三さんですが、取材時あわせて5時間程度インタビューしています。柯さんは、5時間のインタビューの中で、当時の日本の統治に対する率直な思いを語っていらっしゃいます。番組で使用した部分は、柯さんの発言の趣旨を十分に反映していると考えています。台北第一中学校の同窓会でのインタビューも、それぞれの方の発言の趣旨を十分反映していると考えています。

「台湾を反日と結論づけようとした番組姿勢」とありますが、今回の番組に寄せられたご意見の中に、「こうした歴史を知ってこそ、台湾の人々とより良い関係を築いていける」、また「証言を聞いて、台湾の人たちが、より深い意味で親日家であることがよく分かった」というものがありました。私たちも、この番組によって、日本と台湾の間の絆がさらに深まってほしいと願っております。

以上、どうぞご理解いただきますようお願い申し上げます。

平成21年7月10日

日本放送協会 ジャパンプロジェクト

 エグゼクティブ・プロデューサー 河野伸洋