20080320-01総統選挙を2日後に控えた3月20日、李登輝前総統は淡水の群策会オフィスで記者会見を開き、民進党の謝長廷候補に一票を投じることを発表した。

李前総統は、先月日本で刊行された『最高指導者の条件』(PHP研究所)を掲げながら、「台湾の将来と利益を熟慮した上での判断。民主主義政治の精神と最高指導者の条件から、謝長廷氏に我が一票を投じる」と支持理由を述べた。

3月15日にはすでに李登輝学校校友会の席上で「謝長廷氏は必ず勝つ」と、涂醒哲・幹事長を通して発言していたが、今回は正式の支持表明。以下はその記者会見原稿。

各メディアのみなさま、こんにちは。

本日は台北から淡水までわざわざお越しいただき、はじめにみなさまに歓迎の意を表したいと思います。

もう2日も経つと、台湾は第4回目の総統直接選挙を行い、人民の手により直接新しい総統が選ばれ、台湾を新たな段階へと邁進させていくこととなります。台湾の民主の発展から見れば、これは喜ばしい大きな出来事であります。

台湾の民主体制は、全台湾人により多くの困難を克服し、ともに努力して得られた結果であり、また今日の台湾が国際社会で認められ、支持される理由を得ることができた所以でもあります。この業績は先進民主国家と比較すると、たしかに改め、進歩させる必要のある点も多々ありますが、喜びかつ安心に値することは1回1回の総統選挙を経て、私たちの民主の基礎は深く強固なものを得ています。こうしたことから私たちは、民主はすでに台湾に根付いた、と言うことができます。

このたびの総統選挙は2組の候補だけが出馬したことで選挙民を2つに分けることをもたらし、激しい競争を巻き起こしています。選挙民のなかにはすでに支持の対象を表明している人ももちろん多く、様子をうかがう態度をとり続けている人も少なくありません。

この間にも多くのメデイアの方々は、李登輝は何を考えているのか、誰を応援するのかを知りたがり、異なる陣営の人は、私の態度および立場をメデイアを通じて、各種の異なる解釈や推測を作り出しています。ですから鍵となるこの時、私は皆様をお呼びし、自ら説明することを決めました。

ある人は李登輝はブルーだと言い、またある人は李登輝はグリーンだと言います。実際のところ、私が見ているのはブルーとかグリーンではなく、台湾の前途、台湾人全体の利益なのです。私は以前に申し上げたことはないでしょうか。私に誰を応援するのか聞かないでくれ。私は自分に「私は何者であるのか」と聞き、台湾の民主化を推し進めたのはつまり、台湾人が自ら主人公となり、自らの運命の主人公となることを希望していたのです。だから私、李登輝はブルー陣営、あるいはグリーン陣営でないことを嬉しく思います。そして、台湾がどのように歩むのか、その1人の総統候補者こそが台湾にもっともふさわしい人選なのです。

選挙が熾烈をきわめていようと、私たちは台湾民主の永遠たる価値を惜しまなくてはなりません。そのため私たちの努力の重心は、どのように台湾の民主を深化させていくかの課程におかなければなりません。民主政治の基本精神には2つの大きな要件があります。

第1に、執政者には人民に充分な自由と幸せな生活を享受させる責任があり、あわせて国家が末永く発展する目標を兼ね備えていなければなりません。

第2に、民主政治とは牽制と均衡の政治であります。現在、立法院は国民党が4分の3の絶対多数を掌握しています。立法院では、台湾の前途および主権に関する重大な議題に関しても、その他の政党はほとんど牽制と均衡の空間がなく、将来何か事が起こるかもしれず、誰も知ることができなくなります。
特に、新しく第1回の立法院が開かれて以来、この種の状況を表現すると、1匹の統制を失った野馬がいるようであります。これにより、もしも今回の総統に当選した人が同じ政党の候補者であれば、権力の牽制と均衡の問題はさらに厳しいものとなります。もしも権力が適当な牽制と均衡を得ることができなければ、台湾の民主が後退しかねないだけではなく、甚だしきにいたっては民主の崩壊と災難を引き起こし、憂慮しないわけにはいきません。

私は最近、日本で『最高指導者の条件』という本を出しました。そのなかで、私たちはどのような指導者を必要としているかを提起し、国家の命運は指導者の素質と能力により決定する、としました。民主の深化は大きな仕事で、必ず責任ある指導者に依拠し、推し進めていかなければならず、これはブルー、グリーンの問題ではありません。言葉を換えて言えば、誰の主張がもっとも台湾の利益に適しているのかということであり、それはまた選挙民が必ず考慮しなければならない問題でもあります。

そうでありますから私は、1人の国家指導者たる者は、固い中心となる思想を持ち、敬虔な宗教への信仰、誠実な人としての態度、開かれた世界観、および自らの国家への熱い愛情をあわせ持っていることと認識しています。そのなかでも自らの国家への熱い愛情――それが台湾には最も重要となるのです。

私たちは以上の民主政治の清新と国家指導者の条件を提起し、2人の候補者をよく見なければなりません。ここ数ヵ月、私は2人の総統候補者を深く見た結果をここで公に表明したいと思います。私のこの1票は謝長廷さんに投じることに決めました。最後に選挙の結果がどうなろうと、私は台湾人民の選択を尊重します。

各メディアのみなさま、私の報告はこれで終わります。もう一度みなさまがお越しになられたことに感謝いたします。ありがとうございました。