20080315著者の八田晃夫(はった てるお)氏は、烏山頭ダムを造った八田與一(はった よいち)技師の長男だ。一昨年の5月20日、その2週間ほど前に烏山頭ダム湖畔の尊父銅像前にて斎行された墓前際に参列して、帰国後、亡くなられた。

本書は、八田晃夫氏が先に私家版として出版された『後藤新平略史』の新組復刻版で、愛知県土木部長時代の部下だった磯貝正雄氏が編著者として今年の3月に出版したものだ。

編集子は編集者時代の平成9年(1997年)11月、八田晃夫氏からこの『後藤新平略史』を10部ほどいただき、当時、代表を務めていた台湾研究フォーラムの主要なメンバーに配布したことがある。

当時の第一印象は、なぜ八田さんが後藤新平なのだろう、尊父のことを書かれればいいのにというものだった。

八田さんは湾生である。いったい自分の育ってきた台湾の日本統治とはどういう統治だったのか、果たして西洋列強のような植民地だったのか、ずいぶんと気になっていたようだ。そこで、日本の台湾経営の基礎を築いた後藤新平に目を付け、戦前出版された後藤の女婿鶴見祐輔の編纂による後藤の伝記『後藤新平』(全4巻)を読むに及んで「彼こそが明治、大正を通じて第一級の政治家であることを確信するに至った」という。それが執筆の動機だった。

昨年は後藤新平の生誕150年目にあたり、後藤新平関係の本がずいぶん出された。来日した李登輝元総統が第1回後藤新平賞を受賞したことも未だ記憶に新しい。

後藤新平の名は今でこそ普通に語られるようになったが、10年ほど前はほとんど語られることなく、むしろ敬遠する雰囲気が漂っていたといっていいかもしれない。手軽に読めるものは、中公新書で出ていた北岡伸一氏の『後藤新平』(1988年)や郷仙太郎こと青山やすし氏の『小説 後藤新平』(1997年)くらいだった。4巻本の『後藤新平』はすでに古本屋で見つけるしかなかった。

八田さんはそんな時代に後藤新平に目をつけて、公に重きを置いた後藤による台湾統治の実態などを探って伝記として一書にまとめたのが『後藤新平略史』だ。この後藤の軌跡に尊父八田與一が連なる。八田さんはそう確信したはずだ。

この略史に「編著者に聞く」と「人名・地名・事件などの索引および解説」を付して、一書にまとめたのが本書『後藤新平』だ。編著者の磯貝氏の労を多とし一読をお勧めしたい。

■著 者 八田晃夫
■編著者 磯貝正雄
■書 名 後藤新平─夢を追い求めた科学的政治家の生涯
■体 裁 四六判、並製、296ページ
■版 元 文芸社
■定 価 1,470円(税込)
■発 行 2008年3月15日