20060810副題に「中国は台湾を併合すれば日本を属国にする」とある。

過去に宗像さんが心血を注いで執筆してきた労作を集大成したものだが、さすがに歳月をかけての綿密な検証、論考を行ってこられた論文ばかりだ。その一行一行に、その時の苦労や、構想や、政治解釈が塗り込められていて、簡潔に読み流すことは叶わない。台湾問題を考えるときに必携の書になるだろう。

それにしても宗像氏は台湾問題、中米関係、東アジアの安全保障に関して希有の論客であり、発表の毎に各論文は日本や台湾でばかりか、世界的な注目を集める。

本書に収録された論文のなかでも「なぜ台湾は国際社会の正面ドアをノックしないのか」は最初、台湾本省人に人気のある新聞、『台湾日報』に分載され、その後、日本語訳をあわせて冊子が刊行された。これは台湾政界に大きな影響をあたえた記念碑的論文である。

つぎに「台湾の命運をかけた総統選挙」という文章は最初、『正論』に掲載後、中国語、英語訳がでた。

もっとも反響をよんだのは「台湾憲法を制定すれば主権国家と民主主義を確立できる」という論文で最初は、『自由』(2004年10月号)に発表された。すぐに中国語訳が全文、『自由時報』(同年9月21日付)に三面ぶちぬきで掲載され、ついで英訳され、冊子となって李登輝前総統ら主導の「台湾憲法制定運動」のテキストとして用いられている。つまり、台湾が独立したときの憲法はいかにあるべきかを論じた綱領的論文なのだ。

いまでも各地の集会やセミナーで配られており現代的古典と言って良いだろう。

また「存亡の危機に瀕した台湾」(本書と同じタイトル)という論文は2005年7月に『自由』に掲載され、すぐに漢語、英語に翻訳。李登輝訪米のおり、各地の講演会で参加者に冊子が配られた。

本書の肯綮のひとつは以下の呼びかけであろう、と思われる。「(つぎの総統選挙は)台湾の命運と東アジアの将来がかかっている」のだが、もし「統一派が勝って台湾の中国化路線が推進されたら東南アジア諸国は中国の圧力に抗しきれなくなり、中国の天下統一が実現する。」

そうなれば、「米国と中国は冷戦状態に陥」り、「日本の生命線である中東へのシーレーンも中国に抑えられることになる。過去に中国が天下を統一したときも、日本は常にその外にあって独立を守ったが、それさえ危うくなる」。それゆえに「日本と米国は、台湾の総統選挙が自国の基本的国益に直結していることを認識して欲しい」。

巻頭には宗像さんと李登輝前総統との特別対談が掲載されているが、えっ、と思われるような秘話が次々と飛び出してきて、評者(宮崎)もビックリすること屡々。とくに興味津々の中味は参謀総長を8年にわたって独占し、李登輝失脚を何回か狙った赫(カク)白村将軍のはなしなど。

その大事な詳細をこの書評で紹介してしまうより、本書を手にしてもらうほうが良いだろう。

(宮崎正弘の国際ニュース早読み・第1532号より抜粋)

『存亡の危機に瀕した台湾  中国は台湾を併合すれば日本を属国にする』
宗像隆幸
自由社
¥1,470(税込)
8月10日発売