6月5日付の産経新聞電子版に共同通信の小さな記事が載っていた。文字数にして200字ほどだから、紙面ではベタ記事だ。だが、とても重要なことを伝えていた。

ポイントは2つある。1つは、国務省が6月4日に「新型コロナウイルス感染症対策を巡り、台湾と連携し太平洋島しょ国への支援を強化すると発表した」こと。2つ目は、この太平洋島嶼国家への支援強化が、国務省と台湾の外交部がテレビ会議で意見交換したことを踏まえて発表されたことだ。


◆米、感染対策で台湾と連携 太平洋島しょ国を支援

【産経新聞電子版:2020年6月5日】

米国務省は4日、新型コロナウイルス感染症対策を巡り、台湾と連携し太平洋島しょ国への支援を強化すると発表した。中国が国際社会で台湾の孤立化を図る中、米国は感染対策支援の連携を通じ、台湾外交を支える狙いがあるとみられる。

国務省によると、3日に同省や疾病対策センター(CDC)など米国の関係機関、台湾の外交部(外務省)などによるテレビ会議を開催。新型コロナを巡る太平洋島しょ国への支援強化に向けて意見交換した。(共同)


周知のように、台湾は蔡英文政権発足時の2016年5月には、ソロモン諸島、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの6つの太平洋島嶼国家と国交を保っていた。ところが、中国が自国の勢力圏に取り込もうとして2019年9月にソロモン諸島とキリバス共和国を台湾と断交させ、残るはマーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの4カ国となっている。(島嶼国は下記の外務省「地図」参照)

◆太平洋島嶼国家・地図:外務省

中国は、2017年6月にはパナマ共和国、2018年4月にはドミニカ共和国、同年8月にはエルサルバドル共和国という中米3カ国と台湾の国交を断絶させている。

米国の裏庭とも呼ばれるこの3カ国との断交は、台湾よりも米国が危機感を募らせ、国務省は2018年9月にドミニカ共和国、エルサルバドル共和国、パナマ共和国に駐在の大使(パナマは代理大使)を召還するという事態にまでなった。香港に国家安全法導入を決定したのと同様、先に手を出したのは中国だ。

その結果、米国連邦議会は下院も上院も全会一致で、台湾に不利となる行動をとった国に対し、外交関係のレベルの引き下げや、軍事的融資などの支援の一時停止または変更などの措置をとる権限を国務省に与える内容の「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ2019年法」を可決し、2020年3月26日にトランプ大統領が署名して成立している。

ちなみに、法律の略称は「台北法(TAIPEI Act)」と言い、法律の名称「Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative Act」の頭文字から命名されている。

米国はこの法案が上院に提出された2019年5月以降、次々と太平洋島嶼国家への支援を強化し始めた。

トランプ大統領は2019年5月にパラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦の3か国の大統領をホワイトハウスに招いて会談。国防総省が2019年6月1日に発表した「2019年インド太平洋戦略報告書」では、台湾を「国家(country)」と表記し、「インド太平洋地域の民主主義の社会がある地域に、シンガポール、台湾、ニュージーランド、モンゴルは信頼でき、有能で、米国の自然なパートナーである」と記すとともに、太平洋島嶼国家との連携強化が記された。
 
実は日本も近年は太平洋島嶼国家との関係強化をはかっていて、2019年8月に河野太郎 氏が外務大臣として初めてパラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦の3ヵ国を訪問している。

フィジー共和国の南太平洋大学で「我々『太平洋人』の AOI(碧い)未来のための3つの取組」と題して講演し、近年、自由で開かれたインド太平洋のビジョンのために太平洋島嶼国が重要な役割を果たすことがますます明白になって来ていると指摘し、日本が太平洋島嶼国に対するコミットメント強化を決定したと表明している。

河野外務大臣は、防衛大臣に就任してからも太平洋諸島国家との関係強化をはかろうと、今年の4月上旬、軍隊を有するパプアニューギニア、フィジー、トンガの国防大臣や米・豪・英・仏など太平洋島嶼国と関係の深い国の実務者を東京に招き、安全保障上の課題に関する意見交換を行う「日・太平洋島嶼国国防大臣会合」を初めて主催する予定だった。

あいにく武漢肺炎の影響で延期せざるをえなかったが、この会合は島嶼国で影響力拡大を狙う中国を牽制することにあった。そこで、習近平・中国国家主席が来日する予定だった4月7日の直前、4月5日にメイン会議を行い、4日に来日した国防大臣とバイ会談や夕食会を開き、6日にも会議などを予定していたという。

中国が第一列島線(日本列島~台湾~フィリピン)を突破して西太平洋へ進出しようと狙っている現在、太平洋島嶼国家は、日本が提唱し、米国が戦略として取り入れた「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとって重要な国々である。

その意味で、米国の国務省が台湾の外交部とテレビ会議を開いて直接意見を交換しながら、太平洋島嶼国家へ武漢肺炎対策の支援を決めたことは大きな前進だと考えられる。小さな記事だが重要だと述べた所以だ。

ちなみに、台湾は4月半ば、国交国のマーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの4カ国へマスクを2万枚ずつ計8万枚と額式体温計なども提供し、台湾の能力が許す範囲内で支援していくと発表している。

翻って、実は日本の外務省も太平洋島嶼国家への支援は「島サミット」開催などを通じて強化している。米国と台湾とともに日米台の枠組みで太平洋島嶼国家への今回の支援に加わってもよいはずだ。今後の推移を注視しているが、残念ながら出遅れた感は否めない。

【メールマガジン日台共栄:第3746号(6月5日発行)】