【産経新聞:2018年1月3日】

台湾で1988年から2000年まで総統を務めた李登輝氏(95)は産経新聞の取材に応じ、19年に「憲法改正」が議論の焦点になる日本について、「安倍晋三首相には『憲法改正』を成し遂げてもらいたい」と述べた。

「安全保障で米国依存だけでなく、独自の抑止力が必要だ」とも強調。憲法9条の自衛隊明記で防衛体制を明確化し、中国や北朝鮮からの軍事脅威が高まる中で、東アジアの安全保障でも役割を果たすよう期待を示した。

李氏は在任中、総統選出で有権者の投票による直接選挙制を初めて導入するなど、台湾の憲法を改正してきた経緯がある。日本の改憲についてもかねて、支持する立場をとってきた。

改めて日本に改憲を求めた背景として李氏は、ペンス米副大統領が18年10月の演説で米国の対中対決を安保面でも明確にしたことを念頭に、「米中は『第2次冷戦』時代を迎えた。米国の対中政策の急変を安倍首相も常に頭に入れておかねばならない」と指摘した。

安倍氏と長年にわたり個人的な交友関係にある李氏は、「日本が米国と対等で密接な同盟関係を持つことによる『インド太平洋構想』を進め、(中国の巨大経済圏構想)『一帯一路』に対抗することに賛成だ」と踏み込んだ。一帯一路が中国の対外覇権の手段とみている。

台湾を「自国の領土の一部」と主張する中国は、台湾統一に武力行使も選択肢に挙げている。台湾海峡や南シナ海で中台はなお、緊張状態にあり、「第2次冷戦」は、台湾にとっても安全保障上の懸念となる。

李氏はさらに、「覇権主義的な中国がアジアのリーダーになった場合、(アジアの)他国は大いに迷惑する」とも話し、中国の台頭に強い警戒感を示した。

インタビューは、台北市内で18年10月4日に行い、その後、書簡による追加質問で回答を得た。(河崎真澄)

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■李登輝氏

1923年1月15日、日本統治下の台湾生まれ。旧制の台北高校を経て、京都帝国大(現京都大)で農業経済学を学んだ。米コーネル大で博士号。台北市長などを経て、副総統だった88年1月13日、蒋経国総統(当時)の死去に伴い総統に昇格。中国国民党の主席も兼務し、政権中枢から民主化を進めた。96年3月実施の初の総統直接選挙で当選。2000年5月まで12年あまりの総統在任中に「台湾人意識」教育の普及や、東南アジアなどとの実務的な対外関係の構築に努めた。退任後は9回にわたり訪日した。