中国パナマ国交 露骨な台湾圧迫は懸念材料だ

【読売新聞「社説」:2017年6月22日】

中国が台湾を孤立させる動きを強め、波風を立てている。軍事、経済両面での優位を背景にした圧力は、中台間の緊張を高めるだけだ。

中米パナマが中国と国交を樹立し、台湾との100年以上の外交関係を断絶した。

パナマ運河は、太平洋と大西洋を結ぶ海上交通の要衝だ。中国はパナマとの国交で、物流拠点での投資や権益の拡大を見込む。米国の「裏庭」の中南米に、本格的に進出する足がかりにもなろう。

昨年12月には、アフリカのサントメ・プリンシペが台湾と断交している。これで、台湾が外交関係を持つ相手は20か国に減った。

中国の習近平政権が、台湾の「友好国」に巨額の経済支援を持ちかけ、切り崩した結果である。欧州で唯一、台湾と外交関係を持つバチカンとも、水面下で交渉を進めているという。

習政権の圧迫は国際機構にも及ぶ。国際民間航空機関(ICAO)や世界保健機関(WHO)は中国に配慮し、台湾の総会出席を認めなかった。空の安全や人々の健康に関わる国際的な枠組みからの締め出しは、人道上も問題だ。

中国の一連の外交攻勢は、台湾を自国の一部とする「一つの中国」原則を、台湾の蔡英文政権に認めさせる狙いだろう。

蔡総統が主席を務める民進党は、台湾独立を綱領でうたっている。蔡氏は独立論を封印して、中国との対話を模索する一方、中国側の主張は受け入れていない。

台湾の住民の間では、中国に政治的、経済的にのみ込まれることへの警戒感が強く、「中国離れ」が加速しているためだ。

蔡氏は、中国の圧力に対して、「譲歩することはあり得ない」と反発した。民進党内では、「蔡氏の対話路線は行き詰まっている」との批判が高まり、対中強硬論の勢いが増している。

外交工作で台湾を従わせようとする中国の企たくらみは、逆効果になっているのではないか。

中台関係の緊張は、東アジアの安全保障の懸念材料だ。中国は、地域の安定に責任を持つ大国として、関係改善に積極的に取り組まねばならない。

中国の露骨な台湾圧迫は、トランプ米政権の対中政策が定まっていないことも一因だろう。

米国は台湾の防衛力強化を担っており、台湾海峡の平和と安定のカギを握る。マティス米国防長官は、台湾への武器供与の継続を明言した。積極的な関与を維持することが求められる。