台湾の姿描き50年「自分の絵が歴史を記録していると気づいた」 李素貞さん(65)

【産経新聞:2017年4月3日「きょうの人」欄】

日本では初となる個展を5日から東京芸術劇場ギャラリー(東京・西池袋)で開く。

油彩を中心に約70点。絵を描いて50年。小学校の教師、そして2人の子供を産み育てた母親の目で見つめた台湾の姿や社会現象がモチーフだ。

「日常生活で自分が感じたことを素直に表現してきただけだが、改めて整理すると自分の絵は歴史を記録していることに気づいた」

例えば、1997年の香港の中国返還をテーマにした「籠中鳥」。人物の前に2羽の鳥が描かれているが、1羽は籠の中にいる。籠の中の鳥は香港で、外の鳥が台湾だ。今から20年前に描いた。当時は「台湾よ、あなたも籠の中に入りたいのか」との問いかけを込めたが、現在の香港を見るとき、この絵は未来を示唆していた。

太い線で描かれた作品は画家ルオーを想起させるが、もっと混沌(こんとん)としていてみる者を不安にさせる。

創作活動の「伏流」としてあるのは、中国国民党による弾圧の記憶だ。5歳のある日、若者たちが憲兵らに石で頭を殴られ、けがをしたまま車で連行される場面を目の当たりにした。このときの強烈な残像は、その後の創作に大きな影響を及ぼしているという。

今年97歳になる父親は5年前、国民党政権が台湾住民を弾圧した47年の「二・二八事件」の犠牲者と遺族を描いた作品を見て、事件の際に自分の命が危険にさらされたことを初めて明かした。

苦難の時代を経て今の民主的な社会がある。「日本の方にもこんな台湾の近代史があることを知っていただければ」。作品とは対照的な柔和な笑顔で語った。(原川貴郎)

■李素貞(り・すじん)
1951年、台湾・台中県大雅郷生まれ。高雄市立明正、復興小の校長や台中芸術家クラブ会長を歴任。台湾各地や中国の北京、四川などで個展やグループ展を多数開催。


一人の母親が描いた台湾 李素貞創作油絵個展

・日 程:2017年4月5日 (水) ~2017年4月9日 (日)

・会 場:東京芸術劇場 ギャラリー1
     〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-8-1
     電話 03-5391-2111(代) FAX 03-5391-2215
     <受付時間>9:00~22:00(休館日を除く)
【交通】JR・東京メトロ・東武東上線・西武池袋線 池袋駅西口より徒歩2分。駅地下通路2b出口と直結。

・チケット料金:無料

・お問合せ:フリージアグループ企画室 関口 03-6635-1777

・主 催:日台佐々木芸術交流会 フリージアグループ