日本台湾交流協会は1月25日、ホームページに台湾情報誌の月刊「交流」1月号を発行したことを公開し、その中に「自由時報」の鄒景雯・総括副編集長による岸信夫・外務副大臣へのインタビュー記事を掲載している。インタビューは昨年11月30日に行われ、12月12日付の「自由時報」に掲載された。

岸信夫氏は2013年9月に安倍政権で外務副大臣に就任し、昨年(2016年)1月からは衆議院外務委員長をつとめていたが、8月5日に再び外務副大臣に就任。自民党の日台若手議連(日本・台湾経済文化交流を促進する若手議員の会)会長もつとめ、台湾からの信頼は厚い。

鄒氏のインタビューに、日本政府として「日米同盟関係は日本外交の基軸」との基本的立場を述べるとともに、日台関係について「多くのレベルにおける深い交流をより一層強化させていく必要」を訴え、南シナ海や東シナ海を念頭に「この地域の平和と安定を維持するのは非常に重要」という認識を示したうえで「日本、米国、台湾の三者間交流をより一層強化」してゆく必要性を強調している。日本の台湾への姿勢がよくわかるインタビューだ。

鄒総括副編集長は日本版・台湾関係法の制定についても質問していて、岸氏は「日本政府では現在いかなる動きもありません」と事実を述べるとともに「国会議員は関連する研究を行っていますね」と、自身が会長をつとめる日台若手議連などで研究していることを示唆し、制定に含みを残した。

下記にインタビューの全文を紹介したい。


岸信夫副大臣:地域の安定を守る 日米台交流を強化すべき

【日本台湾交流協会「交流」2017年1 月号(No.910)】

当協会では、台湾内で発言力のある方を、「オピニオン・リーダー」として招聘する事業を行っております。この度は、11 月28 日から12 月3日まで、自由時報・鄒景雯総括副編集長をオピニオンリーダーとして招聘し、関係各所へのインタビューを通じて日本の政治・経済・文化方面に理解を深めて戴き、彼女の豊かな知見から分析したものを、台湾の新聞紙面に掲載して戴きました。ここでは、特に岸信夫・外務副大臣にインタビューし、記事(12 月12 日付)になった内容をご紹介させて戴きます。

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本文仮訳:
特派記者鄒景雯/東京独占インタビュー

トランプ時代の到来により、全世界の情勢が盛り上がっている。岸信夫・日本外務副大臣は本紙(自由時報)の取材を受け入れ、以下のとおり述べた。米国がアジアに存在する重要性は変わらず、日本はトランプ・次期米国大統領とともに安全保障と経済戦略上の意思疎通を深めていく。地域の平和と安定のために、日米台の今後の交流を更に強化する必要がある。率直に言うと、日台間の経済貿易協力の議論をさらに進めるため、日本産食品の輸入解禁問題を適切に解決させる必要がある。

岸信夫・副大臣は安倍晋三総理の実弟であり、日本の衆議院議員である。今年8月中旬、安倍総理に任命され、台湾関連を主管する外務副大臣となった。今回、新たな職に就任して後、はじめてのメディア取材を受けた。

(問)台日関係の議論は、国際的な枠組みから探究してこそ、より正しく理解することができると思います。多くの評論家は、トランプ氏の米国新大統領当選は、これからの国際政治に構造的変化をもたらすと見ており、特に日本に関しては、日米安保及びTPP の行方に対する影響に注目が集まっていますが、トランプ時代に対する副大臣の見方はいかがでしょうか。

【日本政府トランプ氏との相互信頼関係構築を望む】

(岸副大臣)11 月上旬、トランプ氏が当選と決まった時、全世界に驚きをもたらしたのは確かであり、日本も同様でした。それゆえ、将来の日米関係、或いはアジアにおける米国の戦略に大きな変化をもたらす可能性がある、そのように分析し、議論する人もいます。

日本にとって、日米同盟関係は日本外交の基軸であり、非常に重要な関係です。米国の誰が米国大統領となろうと、どの政党が執政しようと、日米関係の重要性は基本的に変わることはありません。

安倍総理はAPEC 会議参加のためペルーへ向かう途中、ニューヨークに行きトランプ氏と面会しました。これは、選挙後トランプ氏と面会する世界のリーダーの中で最初のリーダーでした。安倍総理はトランプ氏と単独で1時間半の懇談を行いましたが、これはもともと予定されていた時間を大幅に超えるものでした。この会談自体は非公式であったため、内容は会談後も対外発表されていませんが、安倍総理は会談終了後、「トランプ次期大統領は完全に信頼できるリーダーであり、この点は確信を持っている」と述べています。日本政府としては、これを基礎としてトランプ次期大統領との間に相互信頼関係を築き、日米関係を発展させていくことを希望しています。

アジア全体の安全保障情勢という点から見て、米国がこの地域に存在する重要性にも変化はありません。日本側としては、これらの問題についても、今後トランプ氏との意見交換と意思疎通を深めていく所存です。

(問)副大臣は、今回の会談に関する安倍総理との個人的やりとりを通じ、外部に知られていないことを何か聞かれていますか?

(岸副大臣)はは、自分は総理自身の口からトランプ氏とのやりとりに関するより詳細な中身を聞いたことはありませんが、2人のツーショット写真等の公開情報から伝わってくるものとして、自分は、日本はトランプ氏と必ずや良好な関係を築いていけるものと強く感じています。

【日本側は台湾を基本的価値観を共有する相手と認識】

(問)このような新しい国際情勢の下、これから日本政府と台湾との関係はどのように発展するのでしょうか。国際情勢の変化に対応するため、政治、経済、安全保障等の広く注目されている分野で、バイの関係をより強固なものとするような、より積極的な取組みを行うことはあるのでしょうか?

(岸副大臣)まず述べたいのは、日本政府は、台湾は日本と基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人と見なしているということです。

特に最近、双方の人的往来は、最高記録を毎年更新しており、今年の日台双方向の人的往来は600万人を突破するでしょう。今年2月、台湾南部において大地震が発生し、4月には日本の熊本地域においても大地震が発生しましたが、その際、日台双方の民衆はお互い自発的に支援活動を行いました。相手が困難に直面している時に互いに相手を思いやり、心配するという気持ちを持つことは、日本政府だけではなく、日台双方の民間レベルでも広く共有されています。日本政府は、日台間のこのように美しい双方向の民衆の感情を重要な基礎として、日台間の経済や文化などの分野における協力と交流をより一層深化させるよう望んでおり、我々はそのために努力していく所存です。

特に申し上げたいこととして、蔡英文政権は邱義仁氏と謝長廷氏をそれぞれ亜東関係協会会長と駐日代表に任命しましたが、日本側は、台湾側が重量級の2人を対日業務の窓口に任命したことは、台湾新政権の日台関係重視の姿勢を存分に表すものと受け止めています。我々は、交流協会と亜東関係協会の枠組みを通じ、引き続き率直な交流と意思疎通を行い、様々な懸案を解決していくよう希望しています。

【日台関係民間レベルの心の繋がりが最も重要】

日台関係は、首脳レベル或いは日本交流協会及び亜東関係協会の間の枠組みだけに止まるものではなく、双方の民間でも心と心をつないでいる関係を持っており、このことは極めて重要と考えています。日台間の経済・貿易関係も着実に発展してきており、投資、航空という分野の協力文書に既に署名済みです。我々は、このように多くのレベルにおける深い交流をより一層強化させていく必要があると考えています。

一方、我々は、この地域の平和と安定を維持するのは非常に重要であるため、日本、米国、台湾の三者間交流をより一層強化することが必要であると考えており、また、両岸関係も安定的な発展を遂げられるよう期待しています。

【すべての日本産食品は厳格な検査済台湾に理性的討論を期待】

(問)政治面に関して、日本は今後、米国の台湾関係法と同じように、台湾関係法を制定する方向で検討を進める可能性がありますか?

(岸副大臣)台湾関係法に関し、日本政府では現在いかなる動きもありませんが、国会議員は関連する研究を行っていますね。

(問)経済・貿易分野に関し、日台が経済協力取決め(ECA)を締結する可能性はありますか?

(岸副大臣)御指摘の点に台湾がかなり高い意欲と関心を有していることは、我々もよく理解していますが、日本政府としては、現段階では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の早期発効に向けて全力で取り組んでいるところであります。台湾政府はTPP への参加希望を表明したことがありますが、日本政府としてはこれを歓迎しています。

【日本食品輸入解禁によって日台経済・貿易関係はさらなる進展可能】

さきほど述べましたとおり、我々の関係はこれほどまでに近いがゆえに共に克服すべき課題も少なくありません。現在、我々が直面しているのは日本産食品の輸入解禁問題であり、日台間の経済・貿易協力の検討を更に進めるためには、日本産食品の輸入解禁問題は適切に解決される必要があると考えています。

(問)副大臣は特に日本産食品輸入の問題に言及されましたが、日本側は、現在の台湾における偏見についてどのような感想をお持ちでしょうか。

(岸副大臣)茨城、栃木、群馬及び千葉の4県の日本産食品の輸入に関して台湾で最近開催された公聴会の様子については、我々としてもずっと関心を寄せています。台湾民衆の食品安全に対する高い関心についても、十分理解しています。自分は、今年5月及び昨年5月に台湾を訪問しましたが、いずれも台湾側関係者と日本産食品輸入の問題について真剣に議論しました。台湾が日本産食品の輸入を規制していることについては、日本国民も同様に高い関心を有しています。日本国内で流通している食品は厳格な検査を通して販売の許可を得ており、安全上の心配は存在しません。

若干誤解があるようですが、日本側は、日本の市場で流通していない食品を台湾に輸出する意図は全く有しておらず、この点については、くれぐれも誤解なきようお願いしたいと思います。

我々は、台湾の人々が、科学的根拠に基づかない論調に惑わされることなく、理性的な議論を通じて適切な判断と決定を行うよう希望しています。台湾側において必要な情報があれば、日本側は喜んでこれを提供させていただきます。日台関係はすでに基本的には良好な状態にありますが、この問題さえ解決すれば、必ずやさらなる発展と深化を遂げられるものと強く期待しています。

(問)台湾の野党のエリート、例えば張善政・前行政院長は「日本は韓国の方法に倣い、台湾へ輸出する食品に公的な産地証明を付与すべき」と発言していますが。

(岸副大臣)韓国は、今もまだ特定の日本産食品に対して輸入規制措置を実施していますが、韓国と台湾が関心を有している項目及び規制の内容は異なっています。我々は、日本の関連民間機関および行政当局が発行する産地証明は、いずれも食品の安全性をしっかり保障しうるだけの信頼性を有するものと強く信じています。日本政府の立場としては、この問題は、台湾が自由貿易体制の関連原則に基づいて、公平に食品安全問題に対応するのかどうかということであり、そもそも政治問題化されるべきものではないと考えています。

我々は、台湾の民衆が慌てることなく、冷静に解決の方法を探るよう希望しています。

(問)個人的な取材を通じ、米国がもし最終的にTPP に参加しなくなった場合、日本がその役割を引き継いで、この地域でリーダーとしての役割を果たすべきとの考えが台湾の関係当局内では少なくないことを知りましたが、この点についての副大臣のお考えはいかがでしょうか。

(岸副大臣)我々は地域の統合を主導する役割を演じたいと考えており、そのためにTPP 法案ができるだけ早く国会の同意を得られるよう努力しています。(注:11 月10 日に衆議院でTPP 協定案及び関連法案が可決されたのに続き、参議院でも12 月9日に可決され、国内批准手続きを完了。)

(問)岸副大臣から蔡総統に対するメッセージを。

(岸副大臣)蔡英文総統の新政権が成立してからすでに半年余りが経過しました。蔡英文総統は、正式に就任する前の昨年10 月に日本を訪問され、自分の故郷である山口県も視察されました。自分は、蔡英文総統は昨年の訪日を通じて日本への理解を深められたものと信じており、蔡英文総統が、このような日本への基本的理解をベースとして日台関係を更に発展させてくれるよう希望しています。

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鄒景雯・自由時報総括副編集長のご紹介

経歴:自由時報政治取材中心記者、自由時報総統府担当記者(李登輝、陳水扁時代)

横顔:自由時報6名の副編集長を総括する立場で、主として社説、政治、時事を担当。蔡英文政権中枢や与野党の垣根を越え各政党関係者との独自のパイプを有する。昨年11 月の両岸指導者(馬英九前総統と習近平国家主席)会見の第一報を報じる等、総括副編集長でありながら、現在でも独自の情報網を活かしたスクープ報道を行っている。

著書:「李登輝執政告白実録」(印刻出版社、2001 年5月:「李登輝の若者に対する10 の教え」(四方書誠、2006 年8月):「蕭萬長政治秘録」(四方書誠、2003 年8月)他多数