蔡英文政権は発足早々、外交面で「日本重視」の成果を挙げた。馬英九政権は漁船の拿捕をきっかけに、従来の台湾の立場を覆して中国や韓国と同様に沖ノ鳥島を岩だと主張、巡視船とともになんと軍艦まで派遣、一戦も辞さない強硬な姿勢を取った。

しかし、日本重視を基本姿勢とする蔡英文政権は5月23日、「台湾行政院(内閣)の童振源報道官は『国連大陸棚限界委員会の決定を尊重し、決定前には、この問題で法律上の特定の立場をとらない』と表明。沖ノ鳥島は岩とした馬前政権の主張を事実上撤回した」(毎日新聞)。

そして、双方の窓口機関である日本の交流協会と台湾の亜東関係協会は、海洋協力について協議するための新たな枠組みとして「日台海洋協力対話」を設置するという。

また「台湾側は『日本と台湾の間で緊張感を高めるような行動を取るべきではない』という意向を伝えてきており、沖ノ鳥島沖の巡視船もすでに引き上げを始めている」(NHKニュース)という。

日本政府は蔡英文政権のこの方針を支持し、菅義偉・官房長官は昨日午後の記者会見で、共同通信の質問に答えて「この枠組みを通じて、海洋協力に関する日台間の意思疎通がこれから強化されていくと期待をしており、政府としても、できるだけ支持と協力をしていきたい」と表明している。

日本に宣戦布告なき戦争を仕掛けたかのような馬英九・前総統の「危険な置き土産」は、日台双方の協力と知恵によっていとも簡単に取り除かれた。

下記に朝日新聞の記事をご紹介したい。


台湾新政権、沖ノ鳥島の「岩」扱いを修正 日本を重視

【朝日新聞:2016年5月24日】

台湾の行政院(内閣)は23日、日本と海洋協力対話を立ち上げると発表した。馬英九(マーインチウ)・前総統は任期切れ間際に沖ノ鳥島を「岩」と断定したが、20日発足の新政権は「法律上の特定の立場を取らない」と修正した。蔡英文(ツァイインウェン)総統は日本重視の立場を示すと同時に、政権交代後さっそく外交面で成果を上げたことになる。

沖ノ鳥島をめぐっては、4月末に同島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)で操業していた台湾漁船の船長が海上保安庁に逮捕されたことを機に、馬氏が「EEZを設定できない岩だ」との主張を始めた。馬氏は同島周辺に海岸巡防署(海上保安庁に相当)の巡視船を派遣したほか、公文書で「沖ノ鳥礁」と書くよう指示を出していた。

これに対し、新政権報道官は「台日関係は台湾の対外関係の中で非常に重要」と位置づけ、「緊張を高めるいかなる行動も取るべきではない」とした。沖ノ鳥島周辺の巡視船は引き揚げる意向
だ。

海洋協力対話は日本の窓口機関、交流協会と台湾側の亜東関係協会の枠組みで設けられ、7月末までに第1回対話の開催を目指している。漁業協力や問題発生時の対処、環境保護などを取り上げるという。馬氏も総統在任中に対話を求めていたが、日本は応じておらず、台湾の外交部(外務省)幹部は「新政権のもとで日台関係を強化したいという双方の思いの表れ」と歓迎した。


蔡英文政権が馬前政権改悪の学習指導要領を廃止して以前の要領に戻すと発表

蔡英文氏の総統就任式が行われた翌5月21日、蔡英文政権は馬英九前政権が中国寄りに改悪した学習指導要領を廃止して以前の要領に戻すと発表した。中央通信社の記事を下記に紹介したい。

学習指導要領問題を元に戻すと発表して、内政面で成果を挙げた蔡英文政権はその2日後の5月23日、別掲で紹介するように、2014年3月のひまわり学生運動に参加した学生などに対して馬前政権が行った告訴を撤回すると立て続けに発表、目に見える形で改革を進めている。

蔡英文総統は5月20日の就任演説の最初に「若者のためにより良い国を作る」ことを挙げた。翌日には政策に落として目に見える形で台湾の人々に示した。このスピード感には驚かされる。

沖ノ鳥島をめぐっても馬前政権の主張を事実上撤回したこと上に紹介した通りだ。総統就任4日目というスピードだ。


日本の「植民地統治」強調した教科書、使用中止へ 政権交代で

【中央通信社:2016年5月21日】

20日の民主進歩党(民進党)・蔡英文政権発足に伴い、教育部長(教育相)に就任した潘文忠氏は21日、中国国民党・馬英九政権時代に同部が改訂した「課程綱要」(課綱、日本の学習指導要領に相当)を廃止する行政命令を近日中に出すと発表した。

2014年1月に行われた改訂では、公民や歴史の教科書で、戦後長らく続いた政治弾圧「白色テロ」に関する記述の削除や、「日本統治時期」から「日本植民統治時期」への変更、中国大陸とのつながりを強調する内容の充実化などが決定。当時野党だった民進党や民間団体が抗議を行ってい
た。

改訂に反対する動きは中高生にも波及し、施行直前の昨年7月末には、撤回などを求める生徒が教育部の敷地内に突入する事態にまで発展。約1週間にわたり抗議の座り込みが続けられた。

潘氏は、課綱の改訂は手続きに問題があり、関与したメンバーも偏っていたと指摘。早期廃止を約束した。

改訂版と旧課綱版のどちらの教科書を使うかは各学校の判断に委ねられているため、教育部は今年9月からの1学期に限り、改訂版の使用を許可している。ただ、2学期目以降は旧課綱版の使用が義務付けられる。

また、潘氏は2018年に導入予定だった新課綱について、更なる検討が必要だとして社会科に限って2020年に延期する考えを示した。


蔡英文政権がひまわり学生運動の学生たち126人への馬前政権の告訴を撤回

【NHKニュース:2016年5月23日】

台湾でおととし起きた、中国との経済協定に反対する大規模な学生運動で、今月20日に発足した民進党の蔡英文政権は、運動に参加した学生などに対して前の国民党政権が行った告訴を撤回すると発表し、中国との融和的な立場を取った前政権との違いを一層明確にしています。

台湾では、中国と結ばれたサービス分野の貿易の自由化協定を巡って、おととし3月、当時の与党・国民党が議会での承認手続きを一方的に進めようとしたことに学生たちが反発し、およそ3週間にわたって大規模な抗議活動を行いました。

馬英九前政権は、抗議活動の過程で内閣に当たる行政院の建物に突入した学生たち126人を不法に侵入したとして告訴していましたが、今月20日に発足した民進党の蔡英文政権は23日、「当時の告訴には政治的な考えがあった。調和を進めるという原則のもと、寛大に処理すべきだ」として、告訴を撤回すると発表しました。

独立志向が強いとされる民進党政権は、発足の翌日に、前の政権が改訂し中国寄りだと批判された社会科など高校の学習指導要領の一部の廃止を発表しています。

さらに告訴の撤回を決めたことで、中国との融和的な立場を取った前政権との違いを一層明確にしています。