住民票や調理師免許証、小型船舶操縦免許証などにおいて、台湾出身者の国籍や本籍地が「中国」「中国台湾省」「中華人民共和国台湾省」などと表記されている問題を巡り、参議院外交防衛委員長を務める自民党の片山さつき・参議院議員が「本籍地を台湾と記載することは、日本が尊重する人権主義とも適合します」と指摘し、「台湾」と表記すべきと、8月15日発売の「夕刊フジ」で提案している。

20150816-01これは、ジャーナリストの安積明子(あづみ・あきこ)氏のインタビューに答えたもの。片山議員も自らのブログに「夕刊フジ」の記事を掲載している(下記に掲載)。

本会HPや本会メールマガジン『日台共栄』でお伝えしたように、「中華人民共和国台湾省から転入」と記載された大阪府東住吉区の住民票問題はすでに解決している。この問題は、大阪市は前住所表記として「台湾」を認め、申請者の要求に応じた表記を行うようにという通達を出していたにもかかわらず、通達内容が現場の区役所担当者にうまく伝わっていないだけのことだった。

その点で確かに住民票問題は、安積氏が指摘するように「こうした方針が、各自治体の末端まで行き届いていなかったことが原因」だった。

その「こうした方針」を具体的に記せば、大阪市が通達を出す根拠は、平成21年(2009年)7月15日に公布され、平成24年(2012年)7月9日に施行された「住民基本台帳法の一部を改正する法律」だ。この法律の施行により、外国人住民に対して住民票が作成され、そこに「国籍・地域」欄を設け、台湾出身者は「台湾」と記載するようになったのだった。この外国人住民票の所管は総務省だった。

同時に、法務省入国管理局が所管する「在留カード」も平成24年(2012年)7月9日から外国人登録証明書に替って発行され、このカードに「国籍・地域」欄を設け、台湾出身者は「台湾」と記載されるようになっている。

しかし、都道府県知事が発行する「調理師免許証」や「製菓衛生師免許証」は、住民票といささか異なる。いささかどころか、大いにと言った方が適切かもしれない。

確かに住民票と同じように自治体が発行する免許証ではあるものの、上級機関である厚生労働省の所管となっていて、その上、この2つの免許証には「本籍地(国籍)」を記載するように法律で定めている(調理師法施行令第10条2「本籍地都道府県名(日本の国籍を有しない者については、その国籍)、氏名、生年月日及び性別」)。

だから、台湾出身者の場合、例えば東京都の場合は「本籍地 中国」と記載される。

本会の調査では、「本籍地(国籍)」と表記するのは、北海道、佐賀県、埼玉県、福岡県、岡山県など。「本籍地」とだけ表記するのは、大阪府、兵庫県、熊本県、宮崎県、岐阜県、福島県、山梨県、千葉県、愛知県、富山県、沖縄県、栃木県など。都道府県の多くは「本籍地」とだけ表記し
ている。

ところが、神奈川県は対応が違う。神奈川県では「国籍・地域」と表記し、台湾出身者は「台湾」と記載している。神奈川県がなぜこのような表記になるかというと、県の担当者によれば「それは住民票に基づいているから」だという。

しかし、東京都のように「戸籍抄(謄)本」に基づけば、台湾出身者は「中国」となる。戸籍を所管しているのは法務省民事局だ。昭和39年(1964年)6月19日付で出した「中華民国の国籍の表示を『中国』と記載することについて」という法務省民事局長による通達により、今でも台湾出身者の戸籍の国籍は「中国」とされているのである。

また、調理師免許証を発行する東京都の担当者に確認しても「厚生労働省から台湾出身者は台湾と表記せず中国と表記するように」という指示が出ていると言う。

このように、同じ調理師免許証でも、神奈川県と東京都などでは表記が異なっている。どちらが現状に即しているかは言うまでもない。在留カードや外国人住民登録基本台帳ではすでに「台湾」と表記し、片山議員が指摘するように「本籍地を台湾と記載することは、日本が尊重する人権主義とも適合」しているのである。

ただし、「本籍地(国籍)」を記載しなければならない免許証は、調理師免許証や製菓衛生師免許証に限らない。

小型船舶操縦免許証(国土交通省)、管理栄養士免許証(厚生労働省)、日本料理専門調理師認定技能検定合格証書(厚生労働省)、西洋料理専門調理師認定技能検定合格証書(厚生労働省)、あん摩マッサージ指圧師免許証(厚生労働省)、はり師免許証(厚生労働省)、きゅう師免許証(厚生労働省)、クリーニング師免許証(都道府県)、栄養士免許証(都道府県)など。

上記の免許証の全てを確認したわけではないが、台湾出身者の国籍は「中国」とされているようだ。なぜなら、これらの免許証の取得には必要書類として「戸籍抄(謄)本」が挙げられているからだ。

したがって、現在、台湾出身者の国籍を「中国」としている根源は、やはり昭和39年(1964年)6月19日付で出した「中華民国の国籍の表示を『中国』と記載することについて」という法務省民事局長通達にあるとみていいだろう。

本会は、外登証問題が解決したその翌年の平成22年(2010年)11月3日、小田村四郎会長が柳田稔・法務大臣宛へ「台湾出身者の戸籍に関する要望書」を送達して以来、戸籍問題の解決に取り組んできている。民主党が政権を担当していた5年前のことだ。

署名活動を行い、これまで約3万5,000人の署名を法務大臣宛に署名を送り続けているが、法務省民事局に変更通達を出す気配は微塵もない。民間の力には限度がある。片山議員が指摘されるように、やはりここは「国会議員が頑張るべき」と思われる。

このように、日本の現状は、政府の行政機関である法務省(入国管理局)や総務省と、法務省(民事局)、厚生労働省、国土交通省では、台湾出身者の国籍表記で対応が分かれている。迷惑し困惑しているのは、台湾の人々だ。安倍総理が「基本的な価値観を共有する重要なパートナーであり、大切な友人」と公言した台湾から来日した人々なのだ。

このような行政機関の分裂状況を改め、台湾の人々に安心していただくためにも、この戸籍問題解決のため、国会議員有志が早急に議員連盟を設立して解決に当たっていただくことを切に願いたい。


台湾の人に本籍地「中国」と記載 理不尽対応の実態と解決策 片山さつき氏が語る

◆住民票や調理師免許証

台湾の人々が、日本で住民票や調理師免許を取得した際、本籍地欄に「中国」や「中華人民共和国」と一方的に記載され、心を痛めたケースが指摘されている。台湾といえば、日本とは「自由」「民主主義」「人権」「法の支配」といった価値観を共有し、2011年の東日本大震災では世界最大の義援金を日本に送ってくれた。参院外交防衛委員長を務める自民党の片山さつき参院議員に、この理不尽な問題について聞いた。

「日本が中国と国交を回復したとき、1972年の日中共同声明で『中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府である』としたことが、誤解の原因です。日本政府は、台湾の法的立場について『未解決』との立場。『本籍欄を台湾と記載してはいけない』ということではありません」

片山氏はこう語った。つまり、台湾の人々の本籍地は「台湾」とすべきだったのだ。

こうした立場は、79年に中国と国交を樹立し、台湾と「断交」した米国も採用し、台湾関係法を制定して「事実上の国交」を継続している。

日本も、台湾のWTO(世界貿易機関)加盟や、WHO(世界保健機関)総会のオブザーバー参加に尽力しており、2005年には中国に先んじてビザ免除の恒久化も実現した。国際的な台湾の存在を積極的に認めてきた。

ところが、一部の地方自治体で住民票や調理師免許などを出すとき、前出のような対応が続き、ネットなどで「台湾と、共産党一党独裁国家と一緒にするなんて、ひどすぎる」といった批判が噴出した。

片山氏は「要するに『母国(または出生地)がどこか』という帰属意識的アイデンティティーの問題です。よって、本籍地を台湾と記載することは、日本が尊重する人権主義とも適合します」と言い切る。

こうした方針が、各自治体の末端まで行き届いていなかったことが原因のようだ。改善策として、各自治体をネットでつなぐ案もあるが、米国のように「台湾関係法」を制定することも一案だという。

片山氏は「日本政府が率先してやるのは難しい問題でしょうから、国会議員が頑張るべきです。自民党の『日本・台湾経済文化交流を促進する若手議員の会』は、岸信夫会長の下で『日本版・台湾関係法』を提出することを検討しています」という。

そして、何よりも、台湾は日本にとって最も大事な隣人なのである。

片山氏は「東日本大震災で、どこの国よりもいち早く日本を助けようとしてくれたのが台湾でした。200億円以上もの寄付が寄せられ、温かい励ましの言葉もたくさんいただいた。日本人はこの隣人の友情を決して忘れてはいけません」と語っている。(ジャーナリスト・安積明子)

【夕刊フジ:2015年8月15日掲載、片山さつきブログ[8月14日]より】