二〇一五年七月二十二日

日本李登輝友の会、小田村四郎会長をはじめとする会員の皆様、ご来賓の皆様、こんばんは!

今回、国会における講演のご招待を受けて日本に参りました。昨年の九月以来、日本李登輝友の会の皆様から、このような盛大な歓迎会を開いていただいたこと、心より感謝いたします。

本来であれば、家内も一緒に日本へ来る予定だったのですが、直前になって体調を崩してしまい、同行することが出来ませんでした。家内も今回の日本訪問をずっと楽しみにしてきましたので残念でなりません。次の機会には、ぜひとも二人でまた日本を訪れたいと思っております。

また、今回も昨年と同じく、家族を連れてまいりました。二人の娘に、次女の婿殿、亡き長男の嫁に加え、年末に結婚する予定の孫娘が付いて来てくれました。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、本日午後、私は国会議員会館で、三百人近い国会議員の先生方を前に、「台湾のパラダイムの変遷」と題した講演を行いました。

「パラダイム」とは、日本語だとなかなか一言で表現するには難しい概念です。

字引きをひくと「ある時代に支配的な物の考え方や認識の枠組み」とありますから、「台湾の新しいパラダイム」とは「台湾の新しい枠組み」とも言い換えてもいいでしょう。

パラダイムという言葉を広めた米国の科学史家トーマス・クーンは、パラダイムの概念を「一般に認められた科学的業績で、一時期の間、専門家に対して問い方や答え方のモデルを与えるもの」と定義しています。つまり、ある特定の時代の科学者集団にとって共通の思考の枠組みを指しています。

例えば、アインシュタインが相対性理論を唱えるまで、科学者たちはニュートン力学という枠組みのなかで、その理論を発展させる研究を行ってきました。科学者たちは、特定の時代の科学集団が持つパラダイムのなかで研究を行うのです。

しかし、時代が進み、ニュートン力学のパラダイムでは解決できない例外的な問題が登場してきます。科学者たちは古いパラダイムを修正しようと努力しますが、やがてそうした努力も破綻し、パラダイムによる支配が揺らぎ始めます。

そしてある時期を境に、新しいパラダイムであるアインシュタインの相対性理論が多くの科学者たちに受け入れられるようになり、根本的な変革に至ります。

この「科学革命」は「パラダイム・シフト」、もしくは「パラダイムの転換」とも呼ばれ、その引き金を引くのは、若い科学者や分野が異なる学者など、パラダイムから比較的自由な立場にある人たちだと言われています。

こうした科学におけるパラダイムの概念によって社会制度や規範、価値観の転換を分析すれば、「パラダイムの転換」という概念で、ひとつの社会が元々どのように支配されたか、社会のコンセンサスがどのように主導されたか、旧体制の政治パラダイムがいかに駆逐され、いかなる組織、系統をもった人々が力を結集させて旧社会を転覆させ、新たな新しい社会パラダイムを確立させたかを見て取ることができるでしょう。

言い換えれば、パラダイムの転換という切り口から一つの社会が一定の条件下において、どのように斬新な従来にないパラダイムを生み出し、確立し、強固たるものにしていったのかを観察することができるのです。

私は、こうした「パラダイム」という観点から、戦後、長らく国民党の独裁体制下にあった台湾が如何にして民主化、自由化を進めるとともに、中国とは別個の存在として主体性を確立してきたかを、日本の皆様にお伝えしたかったのです。

昨年春に起こったヒマワリ学生運動に見られるように、台湾を取り巻く枠組みは完全に移り変わり、今や台湾の若者たちは臆することなく「私は台湾人だ」と言うパラダイムが到来しつつあります。

こうした台湾の新しいパラダイムの幕開けに際し、日本李登輝友の会では、「日本版台湾関係法」の制定や、小さな戦術を少しずつ積み重ねていくサラミ・スライス戦術で領土領海の拡大を狙う対中国の政策提言を行うなど、常に時代に則した日台関係の構築に努力されており、私も大変心強く思っているところです。

今回の訪日では、後半に松島を訪問します。二〇〇七年に、奥の細道を歩いた際、瑞巌寺で私と家内が作った俳句の句碑を、瑞巌寺の境内に建立してくれたのもまた、日本李登輝友の会宮城県支部の方々だったと聞いております。

聞くところによると、瑞巌寺の境内は重要文化財のため、句碑を建立するにあたっては、文化庁などの許可が必要だそうで、そうした場所に私たち夫婦の句碑が建てられているというのは、まさにノーベル賞以上の栄誉だと、常々、家内とともに話しているところです。

今回の訪日では、再び日本李登輝友の会の皆さんのお世話になり、大変感謝に絶えません。

今後も、日本と台湾の「心と心の絆」がよりいっそう深まることを期待するとともに、日本李登輝友の会のますますの発展をお祈りして私のごあいさつといたします。

本日はありがとうございました。