20101016-01これまで台湾と日本の交流史は、政治や経済を中心に民俗学や考古学など様々なアプローチがとられてきた。教育史や警察史、女性史や鉄道史はたまた土木史から迫る方法もとられてきた。黄文雄氏のように、天文学ならぬ「水文学」という新しいアプローチの仕方も提示されている。ところが、絵画という芸術・文化史からのアプローチは寡聞にして知らない。本書は絵画における日台交流史を描いた点で、本邦初と言ってよい。

著者の森美根子(もり・みねこ)氏は1996年、台北県立文化センターが主催した「民族風情─立石鐵臣回顧展」の日本側責任者を務めて以降、台湾人画家の日本での展覧会を何度も開催している。昨年も、「現代版画の父」と称される廖修平と水墨画に西洋の表現技法を取り入れた作風で台湾の古跡を描く江明賢の二人展の企画に携わっている。本書が初の単著だという。

本書は、「台湾美術啓蒙の父」石川欽一郎(いしかわ・きんいちろう)をはじめ塩月桃甫(しおづき・とうほ)、立石鐵臣(たていし・てつおみ)という台湾美術界の発展に貢献した3人の日本人とともに、睨蒋懐、黄土水、陳澄波といった台湾画壇第一世代の18人の画家を紹介した画人伝だ。豊かで躍動感に満ちた日台の絵画交流史が手に取るように伝わってくる。

昨年4月に放送されたNHKの「JAPANデビュー」が象徴しているように、領台初期の住民による抵抗を「日台戦争」と呼び、日本の統治時代を差別と弾圧の歴史として指弾しようとするイデオロギー的な認識が未だ日本にはくすぶっている。しかし、森氏はこのような認識と解釈を排す。森氏が寄る辺としたのは、本書の「まえがき」で述べるように、石川欽一郎など日本人が「画家として台湾という生命体に触れた時の体の底から湧き起こる感動」であり、台湾の画家たちの「美を求める心」だ。そこに寄り添いつつ、その画業に迫っている。だから、森氏のつづるままに画家たちの軌跡をたどれば、その心の深淵をのぞいて涙することもしばしばである。

SONY DSC最近、李登輝元総統が台北市内で開催されていた「台湾現代版画の父・廖修平展」に足を運び、廖修平氏から手渡された本書を手に取って読みつつ、鑑賞もそこそこに画家たちについて語りはじめ、「台日芸術交流史を日本語で著した貴重な本だ」と感想を述べたという。

近年になって酒井充子監督の映画「台湾人生」がロングランで上映され、最近では、映画「海角七号」に主演した田中千絵さんの父でもあるメイクアップ・アーティストのトニータナカ氏が「日台文化芸術交流協会」を設立したことにも現れているが、日台の芸術・文化交流史には豊かな場面がまだまだたくさんある。イデオロギーに囚われなければ、台湾からは日本がよく見えるのである。今日につながる日台の絆の源も見出せる本書の味読をお薦めしたい。

■著 者:森美根子
■書 名:『台湾を描いた画家たち─日本統治時代 画人列伝』
■版 元:産経新聞出版
■体 裁:四六判、並製、306頁
■発 行:2010年10月16日
■定 価:1,890円(税込み)