20100924著者の池田維(いけだ・ただし)氏は、いわゆる「チャイナスクール」出身である。外務省に入った1962年から2年間、台湾の国立台湾師範大学で中国語を学び、聴講生として台湾大学に通っていた。後にオランダ大使やブラジル大使も務めるが、2005年5月から2008年7月までの3年間、台湾の交流協会台北事務所代表(駐台湾大使に相当)を務める。約40年ぶりの台湾だった。

この台湾での経験を基に、日台関係はいかにあるべきかを論じたのが本書だ。日台関係にとって中国の動向は避けきれず、おのずと日中、台中関係も論ずることになる。

2008年5月、台湾では民進党から中国国民党への政権交替が行われ、その直後の6月10日朝3時半、尖閣諸島の日本領海内で海上保安庁の巡視船と台湾の遊漁船が衝突、遊漁船が沈没するという事件が起こったことは未だ記憶に新しい。これに対して、尖閣諸島が日本固有の領土であることを台湾側に明確にして収拾策を練ったのが池田氏だった。

このとき中国がいち早く反応し、海上保安庁の艦艇が「中国台湾」の漁船に衝突して沈没させたとして日本に抗議してきた。池田氏は、中国が日台離間策を弄して「中台共闘」を意図していることを見極め、台湾側は中国が入ってくることを望んでいないことを察知して対応したという。

本書は、これまでの日台関係に加え、変貌を続ける台湾の状況について、かなりうまく整理している。台湾問題に関心を持ち始めた向きにとっては打ってつけの一書であろう。しかし、冷静沈着に整理した内容ばかりかというと、そうではない。言うべきことは言っている。特に中国に対しては厳しい。

例えば中国がよく使う「台湾は古代以来、中国の一部」という言い方に対しては「これは無知による間違いか、故意の捏造によるものだろう」と切り捨てる。また日本の「集団的自衛権は権利として保有するが、行使はできない」とする政府の見解に対しても、台湾に一朝有事が発生して沖縄駐留米軍が行動するような事態に立ち至ったなら、そのような「法律論は日本国内においてもはや通用しなくなる」とも断ずる。さらに、日米中の関係を「正三角形」の関係と捉える日本国内の見方に対しても「適切でない」とし、台湾の将来は「2300万人の住民の意思により決定されざるを得ない」とも述べる。

台湾が日本にとって「生命線」である理由が、本書を読めばよく分かる。池田氏の前任者として2002年2月から2005年5月まで駐台湾大使を務めた内田勝久氏(故人)は4年前に『大丈夫か、日台関係-「台湾大使」の本音録』(産経新聞出版)を出版している。本書はその続編と言っても過言ではない。

■著 者:池田 維
■書 名:『日本・台湾・中国 築けるか新たな構図』
■版 元:産経新聞出版
■体 裁:四六判、上製、236頁
■発 行:2010年9月24日
■定 価:1,785円(税込み)