安全な運行システムを確立して欲しい、というのが日本や台湾の関係者の心境だろう。

日本の新幹線技術を海外で初めて採用した台湾高速鉄道が、今月から開業した。

車両は「700系のぞみ」がベースで最高時速は300キロ。これまで4時間以上かかった台北~高雄約345キロを最短1時間半で結ぶ。沿線開発など、経済効果への期待は大きい。

開業時期は、当初2005年10月だった。だが、工事の大幅な遅れから1年延期された。さらに、脱線事故などで再び延期となって、ようやく営業運転にこぎ着けた。

今は正規運賃の半額で“慣らし運転”中だが、乗車券の二重発券、ドアの誤操作といったトラブルが続いている。わずかながら未開通区間も残る。直近の世論調査では、台湾市民の7割強が「運行に不安を覚える」と答えている。

安全運行の実績を積み重ねて利用者の不安を払拭(ふっしょく)する。それが台湾新幹線の当面の最重要課題である。

当初、高速鉄道事業を受注したのは独仏企業の欧州連合だった。99年9月の台湾大地震後、地震に強い新幹線システムが再評価され、三井物産や三菱重工業などの日本企業連合が逆転受注した。

その結果、レールや無線、自動列車制御装置(ATC)などのシステムに日独仏3国の技術が混在して、日欧間の設計調整に手間取り、開業が大幅に遅れた。運転士の養成も遅れて運行本数が減り、収益計画にも狂いが出ている。

日本側では、新幹線モデルの一括輸出を果たせず、「寄せ集め」「別物になった」との不満がくすぶる。

だが、台湾での経験は、次の輸出商戦に貴重な財産となるのではないのか。

新幹線は超高速列車を数分間隔で走らせているが、海外にそうしたニーズはない。車両、軌道など部分ごとの輸出にならざるを得ない。

中国やロシア、ベトナムなどが新たな輸出先の候補とされる。とくに壮大な高速鉄道網計画の進む中国では、日欧勢がすでに車両受注などを競っている。

その中国は、海外の先進技術を移転させ、自主開発につなげる戦略だ。日本企業連合は在来線高速化向けに、車両を受注した。だが、完成車両として輸出したのはごく一部で大半は部品や技術提供による現地生産となった。

ほかの国も現地化に熱心で混在型になる可能性が高い。それだけに、安全への責任は輸出先に負ってもらわねばならない。万一、事故が起きても、日本の責任を追及される事態は避けるべきだ。【2007年1月21日・読売新聞】