日本李登輝友の会理事・日台鉄路愛好会幹事 片木裕一

台湾高速鉄道(台湾版新幹線)は当初予定されていた12月7日の開業式中止決定後、様々なトラブルの噂や憶測が流れ、今後の成り行きが注目される一方、一部では「オオカミ少年」と揶揄されている。現在一体どうなっているのか?

正直なところ、予測がつかない。これは私だけでなく、台湾交通部も日本連合も、そして当事者である台湾高鉄会社も分からないのではないかと思う。とりあえずロイド社の検定はパスしたものの、大幅な増発には制限が課せられている。また、相次ぐ初歩的なミスによるトラブルから、台湾交通部は「試験運転の1ヶ月延長、かつその間にトラブルがなければ開業許可」という結論を下した。この決断は評価したいと思う。

しかし、親の心子供知らず、一部では先の交通部の指示から一ヵ月後の12月23日の開業式も考えられていたようだが、つい先日もトラブルがあり、年内の開業は不可能になった。トラブルがある限り、そこから1ヶ月延期される訳なので、予測がつかない、ということである。個人的にはお正月の春節(2月18日)には間に合わせてほしいものだが。

今回、この台湾高鉄に試乗する機会をいただいた。

これは先般台湾高鉄会社が報道関係者を招待して試乗会を行ったのと同様、今回は旅行業者を招いて行うもので、台湾李登輝学校研修団でおなじみの、李清興さんの「勝美旅行社」にも案内が来て、私はこの勝美旅行社の一員として参加できることになったものである。

12月12日、13時50分、板橋駅集合。板橋は台湾鉄路、MRT(地下鉄)と台湾高鉄の連絡駅で、台北駅から台鉄なら2駅、MRTなら5駅のところ。駅自体は地下なのだが、これがとてつもなく広い。昨年見学した左営駅も広大だったが、負けてない。高鉄の切符販売窓口や自動販売機は既に設置されており、電光掲示板も通常運行と同じように掲示されている。

現在、高鉄はすでに発表されている「1日19往復」ダイヤで連日試運転を行っているが、電光掲示板には各列車の発車時刻が表示されている。それによると、19本の内、15本は毎時25分板橋発左営行各駅停車で、左営までの所要時間は2時間である。

「旅行業者一行(約70人)」が乗車するのは14時25分発左営行で、台中まで。途中、桃園と新竹に停車し、台中には15時21分着。現在の台鉄・自強号だと最速で1時間49分だから、所要時間は約半分である。台中では1時間ほど見学し、台中16時29分発の列車で板橋に戻るという予定だ。

いよいよ乗車。しかし、ホームで待機している列車はチリや埃まみれでたいへん汚れている。しかも先頭部には赤茶色のシミ。10月30日に試乗した片倉佳史さんから「汚いですよ~、窓から写真は撮れないし、先頭車は鳥と衝突した跡が沢山ついていて絵になりませんよ」とは聞いていたが……。赤茶色のシミは鳥と衝突した痕跡なのである。

車内は当然のことではあるが、日本の新幹線とほぼ同じ。走り出して地上に出たあたりは台湾らしい街並みであるが、暫くすると田園風景になり、静岡県あたりを走っているのと変らない。揺れはほとんどなく、新竹~台中間では実際に300キロメートルを出した。日本の新幹線700系より馬力の大きいモーターを使用していることもあってか、300kmでも 余裕が感じられた。

かくして台中到着。この駅は台湾鉄路との接続駅で(台鉄の台中駅ではなく、少し南に新駅を作った)、ここも広大な駅舎。その割に改札口が少ないのだが……。板橋に戻る列車も、残念ながらたいへん汚れていた。車内や駅設備は掃除が行き届いているにもかかわらず、鉄道の顔ともいえる車輛がこれでは……。恐らく「飛行機感覚」なのであろう。アンケートがあったので、李清興さんとともに「車輛が汚い」と書き記してきた次第。

今回案内いただいた高鉄の職員に、運転士について聞いたところ、「現在33人、全員外国人(国籍は教えてくれなかったが、大半はフランス人)であるが、台湾人の研修生は多数おり、来年4月頃には10分毎の運行も可能なぐらいの人数になる」とのことであった。また、現在は法の規制で315kmが上限だが、性能からいえば350kmまで可能であり、将来は実施したいとのこと。

今回の試乗で感じたことは、1時間1本程度の運行であれば、明日からでも開業可能な体制ができている、ということ。昨年10月に左営駅を見学したときは「これで本当に今月開業するつもりだったのか」と思うほど杜撰であったが、今回は本気モードにあふれている。試運転も通常運行は極めて順調であり、合い間合い間に「異常事態」を想定した訓練が行われている。脱線等のトラブルが伝えられているが、これらは全て「異常事態」を想定した訓練で発生していることを付け加えておきたい。

勿論、運行システムがどう決着したのかは不明であり、運転士養成問題も現在進行形なので楽観はできないが、彼らが安全第一を本気で考え、取り組んでいる姿勢は窺がえた。

あとは車輛の外側を掃除すること!