日本李登輝友の会理事 片木裕一

■額面通りに受け取れない台湾高鉄の発表

またしても台湾新幹線の開業問題がくすぶっている。最近の新聞報道を紹介し、分析を試みる。
報道のトップバッターは4月18日付の「台湾週報」。「台湾高速鉄道、各種整合テストは順調」とのタイトルで、その内容は4月19日付の本誌で紹介しているので省略するが、「10月末開業に向けて各種システムの整合テストは順調に完了し総合テストの段階である」と報じている。
この記事は台湾高鉄の以下の発表がベースになっていると思われる(台湾高鉄ホームページ)、このページの「最新訊息」を見ると、以下の発表を見ることができる)。

發稿日期: 2006/04/18

標題: 台灣高鐵700T型列車今(18)日首度通過高鐵桃園站。

台灣高鐵700T型列車今(18)日從高鐵烏日基地出發,行經高鐵新竹站,並首度通過高鐵桃園站,到達高鐵里程TK19.7 (近台北縣樹林市)。台灣高鐵公司表示,各項系統整合測試工作皆與台灣高鐵核心機電系統承商持續依計畫進行中,今年10月底台北至高雄的通車目標並無改變。

要は読んで字の如く、試験は順調に進んでいて、台北-高雄の10月末開業は変更なし、という内容である。しかし、額面どおり受け取る訳にはいかない。なぜなら、少し前に次のようなことがあったことを念頭におかなければならない。これも台湾高鉄の発表から。

發稿日期: 2006/03/29

標題: 壹週刊第253期「高鐵10月通車生變」之報導,台灣高鐵公司厳正澄清説明如下

台灣高鐵公司將於今年十月底如期如質通車,各項測試工作持續依計畫進行,並無所謂「通車生變」之情事。

これは「壹週刊」第253号で「10月開業は延びそうだ」という報道があって、同紙はその根拠として、高鐵桃園大坑的変電所発生「爆炸」事件、桃園の軌道上的屋頂還会漏水、高鉄桃園站月台積水などをあげていたが、これに対し台湾高鉄は「それぞれ完全に解消済」とし、続けて以下のコメントを発表している。

壹週刊報導數度引據不名人士的説詞,逕自作出不專業且不負責任的推論,台灣高鐵公司至表遺憾。

無責任な推測は遺憾である、ということ。先月には地盤沈下の問題を提起され、「台湾高鉄公司至表遺憾,並将保留法律追訴権」というコメントを発表したこともある。

■中日新聞とアサヒコムが開通の一部遅れを報道

しかし、複数の情報からするとこのコメントは当てにできないかもしれないと思っていたら、やはり出てきた。4月19日付の中日新聞である。「台湾新幹線、台北で工事遅れ-10月は部分開通」との見出しで以下の内容を伝えている。

【台北=佐々木理臣】日本の新幹線システムの初輸出である台湾高速鉄道(新幹線)について、台湾の郭瑶!)・交通部長(国交相に相当)は18日、今年10月に予定していた台北-高雄間(345キロ)の開通が一部遅れることを示唆した。
郭部長は、事業主体の台湾高速鉄路(台湾高鉄)は10月末までの台北-高雄駅間全線開通を目標に工事を進めていると強調する半面、台北-板橋駅(台北県)間約7キロが「ボトルネックになっている」と工事の遅れを認め「少なくとも(10月までに)板橋-高雄間は開通できる」と見通しを述べた。
同鉄道は昨年10月開業予定だったが、台湾高鉄当局は昨年9月、電気システム工事の遅 れを理由に開業一年延期を発表。台北-板橋間は在来のトンネルを利用するため軌道幅やホームの高度、電気システムの調整などに手間取っているという。当初は間引き運転でスタートする可能性もある。

次に出てきたのが4月23日付の「asahi.com」だ。「台湾新幹線、全線開通来年はじめに再延期」との見出しで、やはり工事の遅れを伝えている。

【asahi.comより】当初予定より1年遅れの今年10月末開業を目標に工事が進む台湾高速鉄道(台湾新幹線)は、台北-高雄間345キロの全線開通が来年初めにずれ込み、当初は台北駅から約7キロ南にある板橋駅(台北県)からの発着となる見通しとなった。台北-板橋の地下区間の電気工事が遅れているためだ。運転士も養成が遅れ気味で当初はフランス人の経験者らに頼るなど、再度の開業延期を避けるために駆け込み開業になりそうだ。

全線開通は最も早くて07年1月末になる見込みだ。それまでは、日本の東北新幹線が、開業当初は東京駅に乗り入れず、大宮や上野駅発着だったのと同様の運行になる。

台湾新幹線は車両などは日本の技術が初めて輸出されたが、当初は欧州の高速鉄道システムをもとに建設された。開業が1年延びたのは、機械電気システムの設計・施工に関する欧州と日本の意見の食い違いから、工事が大幅に遅れたためだ。

台湾人運転士の養成も遅れており、今年半ばから本格化する。事業主体の台湾高速鉄路(台湾高鉄)はフランスの高速鉄道TGVの運転経験者ら約40人を開業までに雇う。「日本企業がつくった新幹線車両をフランス人が台湾で運転する」ことになりそうだ。

開業当初の運行本数は1日当たり35~40本の予定で、収益計画の前提になっている本数の半分程度にとどまる見通し。運転士不足に加え、板橋駅折り返しとなったことで車両のやりくりが難しくなったこともある。

民間鉄道事業である台湾新幹線は、約1兆円という巨額の借入金を運賃収入で返す計画。運行本数の減少は返済計画にも影響しかねない。

台湾高鉄は年内に約350億台湾ドル(約1260億円)の資金を必要としており、駅前開発権を担保にするなどの形で銀行に融資を求めている。銀行としては、台湾当局が全面支援の姿勢を続けるかどうかを確認しながら、融資に応じるかどうかを決めるとみられる。

■板橋-台北間は半径304メートルの急カーブ

私は2005年7月9日付の本会メールマガジン『日台共栄』第198号に「本当はいつになる? 台湾新幹線の営業開始」と題し開業時期の問題を提起したことがある。

その文中、「関係者の一部から『開業は来年以降の可能性がある』との声が聞かれる。言葉尻を捉えて詮索するのは本意ではないが、ここには『必ずしも来年とは限らない(= 2007年になるかもしれない)』というメッセージが隠されているようで気持ちが悪い。勘ぐれば、一鉄道マニアが立ち入れない、言わば『見えない部分の問題』があるのではないだろうか」と記した。

実はこのとき板橋-台北の地下区間に問題のあることは把握していたが、諸事情により公表を控えていた(だから「見えない部分」と記した)。

今回、中日新聞は初めて具体的にこの地下区間が問題であることを報じた。内容も私の知る範囲では極めて正確と思う。

そもそも問題は1年前時点、この区間はまだ日本連合には引き渡されていない。従って電気システムの施行が遅れるのは当たり前である。それだけではない、この区間には半径304メートルの急カーブがある。といっても想像がつかないかもしれないが、東海道新幹線は原則半径2,500メートル、台湾新幹線は公表上原則半径6,250メートル(一部5,550メートル)ということになっている。

半径304メートルというのは、在来線でもあまりない急カーブである(日本の新幹線営業路線の最少半径は上野―秋葉原間の400メートル)。確かに、新幹線車両は半径150メートルでも曲がれるし、半径200メートルぐらいの箇所もある。しかしこれは引き込み線とか車庫の中、即ち非営業線なのだ。現実問題として、板橋-台北間において「曲がれるが、すれ違いができない」となれば、この区間は実質単線運行になるので、中日新聞が示唆するとおり「当初は間引き運転で」ということもありうる。

また「軌道幅やホームの高度、電気システムの調整などに手間取っている」内容については、未確認ではあるが台北駅のホームが新幹線規格に合っておらず、ホームを削ったり路面をかさ上げしている、という笑い話のようなことも漏れ聞いている(にわかには信じられないが)。

念のため書き添えておくが、この区間は台北駅の地下化の際に建設されたもの(「TRUPOトンネル」という)であるが、現時点では構造上問題はないと言われている。

■深刻な運転士養成問題と板橋折り返し運転問題

アサヒコムの報道はもっと深刻である。
ポイントは2点ある。ひとつは「運転士の養成」、もうひとつは「折り返しによる運行制限」である。

昨年10月、JR東海は契約に則り派遣していた運転指導員を引き上げた。暫定的に安全指導を担当するJR西日本が試運転を手伝っていたが、運転指導は管轄外である。そこで台湾高鉄はフランスから指導員を雇うことにしたが、このためフランス語版のマニュアルを作成するなど大変手間取った経緯がある。嫌気がさして台湾高鉄を去った職員もいると聞く。

結果、アサヒコムによると「本格的な養成開始は今年半ばから」とか。僅か3ヶ月程度の訓練で営業開始する気なのだろうか。

また、「板橋折り返しのため運行本数が大幅減になる」とのことであるが、台北駅も2線しかないので、基本的には同じである。

例えば、9時10分に1本到着、9時20分にもう1本到着すると満杯になるので、次に9時30分に到着する列車があるならば、その前に1本は出発しなければならない。即ち、15分程度で降車・清掃・座席転換・乗車を済ます必要がある。

しかし、これでもギリギリで、万一故障などあると、ダイヤはズタズタになる。本来は、台北駅から引き込み線がありその先の南港に車庫があるのだが、この区間は今も工事中である。

■面子や形式にとらわれず安全最優先を!

2005年9月8日、台湾高鉄が1年の延期を発表し際、翌日付の本会メールマガジン『日台共栄』第222号にて「台湾新幹線の改訂開業日は来年10月31日!!-疑問は残るが、決めたからには頑張っていただきたい」と題し、「この来年10月という期日は日台双方が最善を尽くしてギリギリ達成可能な期日である。決めたからには日台関係者は一致団結して頑張っていただきたい」とエールを送った。

今も気持ちは同じである。面子や形式にとらわれることなく、落ち着いて調整し、安全最優先で進めてもらいたい。結果、部分開業になったり、全線が多少延期になっても構わないのである。
なお、資金関係にも問題はあると聞くが、不明確な点が多いので今回は割愛した。