鈴木宗男衆議院議員が外務省の対中国広報活動に関する質問主意書を提出したことが判明した。下記はその全文であり、質問主意書に対する政府答弁書も掲載する。原文はすべて縦書き。


質問
平成十八年二月九日提出
質問第五九号

外務省の対中国広報活動に関する質問主意書

提出者 鈴木宗男

一 外務省による広報活動の定義如何。

二 外務省は中華人民共和国において広報活動を行っているか。

三 二〇〇五年十二月十二日の奥付で井出敬二在中華人民共和国日本大使館公使が「中国のマスコミとの付き合い方-現役外交官第一線からの報告-」(日本僑報社)(以下「中国のマスコミとの付き合い方」とする。)を出版したが、右出版に際しては事前に外務省に出版届が提出され、内規上の手続きを経たか。手続きがとられたとした場合、外務省から右出版に関して何らかの意見や要請が井出敬二公使に伝えられたという事実はあるか。「中国のマスコミとの付き合い方」は外務省の意見や要請を踏まえた上で出版されたものか。

四 「中国のマスコミとの付き合い方」の九十五頁に井出敬二公使の発言として「六十年前の戦争において、日本は大きな間違いを犯した。十年前、当時の村山富市総理はこのことについて反省を表明した。小泉総理も本年の八月十五日、反省の意を表明した。日本は過去の六十年間、徹底的に反省するとの立場に立っており、これは第二次大戦終結前と比べ異なっている。」との記載があるが、井出公使はこの発言をしたのは事実か。「日本は過去の六十年間、徹底的に反省するとの立場に立っており」というのは日本政府の公式の立場を反映したものか。

五 「中国のマスコミとの付き合い方」の七十八頁に井出敬二公使の発言として「日本政府は台湾独立を支持しないと私はもう一度述べたい」との記載があるが、これは日本政府の公式の立場を反映したものか。

六 「中国のマスコミとの付き合い方」の八十七頁から八十八頁に井出敬二公使の発言として「教科書が重要であるとの意見に同意する。この問題には、その歴史的背景がある。第二次世界大戦前、教科書は国定であり、軍国主義推進に利用された。第二次世界大戦中、政府は戦場の報道を検閲したため、日本人は中国で起こったことを知らなかった。戦後、日本人は日本軍が中国でしたことを知り、日本人自身驚いた。そのため、日本人は政府がいかなる事実も隠してはいけないと決め、マスコミの検閲制度を改革した。これは軍国主義の道を再び歩まないようにするための重要な改革である。

マスコミの検閲制度が廃止されて以来、日本の自衛隊が仮に誤ったことをしても、政府はそれを隠すことはできない。中国人は、日本の全ての教科書が、日本の中国侵略を認めていないと思っているのかもしれない。これは北京の日本人学校で使っている、東京書籍出版の歴史教科書である。(原注:公使はその教科書を記者に渡してくれた。)この教科書は、文部科学省が検定した八つの中学校歴史教科書の中で採用率が一番高い教科書である。この教科書には、日中間の歴史的事実がはっきり書いてある。『日本の中国侵略』、『南京大虐殺』、『廬溝橋事件』と記述されている。日本軍がアジアの国に悲劇と損害をもたらしたことが書いてある。このように実際には日本はこれらの事実を認め、そして真実の歴史を子供たちに教えている」との記載があるが、井出公使はこの発言をしたのは事実か。右発言は日本政府の公式の立場を反映したものか。

七 井出敬二公使が東京書籍出版の中学校歴史教科書を中国人記者に渡したのは事実か。事実とするならば、右教科書の購入経費は公金から支出されたか。

八 井出敬二公使が特定出版社から出版された教科書を「文部科学省が検定した八つの中学校歴史教科書の中で採用率が一番高い教科書である」との解説を付した上で中国人記者に渡し、「この教科書には、日中間の歴史的事実がはっきり書いてある。『日本の中国侵略』、『南京大虐殺』、『廬溝橋事件』と記述されている。日本軍がアジアの国に悲劇と損害をもたらしたことが書いてある。このように実際には日本はこれらの事実を認め、そして真実の歴史を子供たちに教えている」と、日本が「中国侵略」、「南京大虐殺」などの「事実を認め」、「その真実の歴史を子供たちに教えている」との言動を行ったことは、外務省の広報活動として適切と考えるか。

右質問する。


①答弁
平成十八年二月十七日受領
答弁第五九号

内閣衆質一六四第五九号
平成十八年二月十七日

内閣総理大臣 小泉純一郎

衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員鈴木宗男君提出外務省の対中国広報活動に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員鈴木宗男君提出外務省の対中国広報活動に関する質問に対する答弁書

一及び二について

外務省は、外務省設置法(平成十一年法律第九十四号)第四条第十五号等に規定する事務として、中華人民共和国を含む各国において広報活動を行っている。

三について

御指摘の書物(以下「書物」という。)については、井出在中華人民共和国日本国大使館公使(以下「井出公使」という。)から外務省に対して寄稿(出版)届が提出され、外務省の意見が伝えられた後、出版された。

四及び五について

書物の御指摘の部分の記述は、井出公使に対するインタビューについて中国の新聞がその理解に基づいて報じた記事を書物の筆者である井出公使が日本語に翻訳したものと承知している。
政府としては、昨年八月十五日の内閣総理大臣談話等において、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたとの歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきており、また、台湾に関しては、昭和四十七年の日中共同声明第三項に基づく立場をとっている。

六及び八について

書物の御指摘の部分の記述は、井出公使に対するインタビューについて中国の雑誌がその理解に基づいて報じた記事を書物の筆者である井出公使が日本語に翻訳したものと承知している。外務省としては、このインタビューにおける井出公使による説明は、東京書籍株式会社が出版した歴史教科書における記述を客観的に紹介し、四及び五についてで述べた内閣総理大臣談話等に盛り込まれた我が国の基本的立場について先方の理解を促すために行われたものと考えている。

七について

外務省としては、井出公使は、公費によって購入された御指摘の歴史教科書を中国人記者に貸与したものと承知している。