日本李登輝友の会理事 片木裕一

■ 開業の遅れは地盤沈下

11日に放映された「筑紫哲也NEWS23」の台湾新幹線に関する報道は、多くの方が見られたと思うが、この報道について、この場でひとこと申し述べたい。

放送内容は「開業遅れの本当の原因は雲林地区の地盤沈下にある」とし、台湾の土木建築家で日本でも土木工事に携わった経験のある李鴻鈞氏がインタビューに答え、「この地区は1年で5~7センチの沈下がある、ひどいところは5メートルも沈下している」と述べ、加えて、水利が悪いので地下水の汲み上げが恒常化しているため今後も沈下し続ける、との解説があった。

実際に写真も表示、橋脚に隙間ができていて、そこに鉄板を差し込んだ不細工な光景がクローズアップされていた。
対して日本連合側は「工事は引き渡し前に終了している」と述べ、本件については責任のないことを暗に示唆していた。

結果として多大な追加工事が必要であり、1年の延期はやむをえなかった、というもの。そこまでは、まあよしと言える。確かに「一部の地盤沈下が問題」とは聞いていたが、まさかこれほどとは思わなかった。

しかし、これほどの事態が今まで放置されていたのか、というと、そうでもない。調べてみると、すでに昨年の5月に台湾紙「中国時報」が指摘しており、日本語ニュースもNNA台湾が報じている。以下、そのときの報道内容である。

雲林の地盤沈下、高鉄の安全性に影響か 【2004年5月12日付・NNA台湾】

11日付中国時報は、雲林県一帯の深刻な地盤沈下が、来年2005年10月開業予定の高速鉄道(台湾新幹線)の安全に影響を及ぼす可能性を指摘した。政府は沿線での植林の奨励などによって問題を食い止める考えだ。

経済部(経済省)水利署の委託を受けて、雲林県と彰化県で地盤沈下の実態調査に当たっている虞国興・淡江大学水資源政策および管理センター主任によると、高速鉄道沿線の雲林県土庫郷と元長郷一帯の地盤沈下は1年に3~13センチと深刻で、現状のペースが続いた場合、沈下幅は10年間で1メートルとなり、高速鉄道は運行不能になってしまう。

台湾高速鉄路(台湾高鉄)はこうした現状を深刻な問題と受け止めている。地盤沈下による弊害は高架の支持力減少と段差の発生で、それぞれ列車運行の安全性に影響を及ぼす恐れがある。

雲林県は台湾の各県市の中で最も地盤沈下が激しく、合計面積は611平方キロメートルに及ぶ。これは地下水の過度のくみ上げが原因で、同県の年間の地下水量は4億5,000万立方メートルだが、組み上げ量は5億8,000万立方メートルと30%近くも上回っている。同県では1980年代に農産品価格の下落を受けて、沿海地区の農民が次々とカキなどの養殖に転業。それらの業者が大量の地下水を使用したために、沿海部で深刻な地盤沈下が発生した。地盤沈下は徐々に内陸に波及し、現在は土庫鎮と元長郷が最も深刻になっている。

こうした現状に対し政府は、▼高速鉄道沿線3キロ以内の農地計9,900ヘクタールに、保水能力向上のため造林を奨励すること▼沿線3キロ以内の井戸73カ所の移転によって地盤沈下を食い止める考えだ。植林事業への補助金は200億台湾元を超える見通しとなっている。(引用ここまで)

■日本発注は李登輝前総統来日の見返りと解説

いささかノンビリした対応、という印象は拭えないが、それはここでは良しとする。

この後の解説がいかにもこの「NEWS23」らしいのである。「そもそも台湾が欧州連合から日本へ鞍替えしたのは、2001年4月の李登輝前総統の訪日の見返りだったと囁かれている」と、さもしたり顔で解説したから驚きである。しかし、逆転決定したのは1999年12月のことであり、これはどう見てもコジツケというか、ある種の意図が感じられる。

さらに、最後には上越地震で脱線した上越新幹線の写真を持ち出し、いたずらに不安を煽る。ま、いいか。これで中国へ新幹線を、などと言っている人への警鐘となるなら……(TBSは中国新幹線に反対する姿勢を見せたと言える、後述)。

■施工業者は大陸工程

本題に戻って、こういった問題があれば、当然施行業者と管理者へのヒアリングは欠かせない。番組も管理者である台湾高鉄への取材を試みたが拒否されていた。

では、施行業者は? 番組では触れられていなかった。これは調べればすぐ分かる、「大陸工程」である。
この「大陸工程」、台湾では誰もが知る大手建設会社であるが、問題はこの会社が受注したときの大陸工程社長は殷!!)その人なのである。さらに首をひねりたくなるのは、高鉄と大陸工程の特別な関係は、関係者筋では周知の事実だという。

「熱烈台湾新幹線支持」の私も空いた口が塞がらない。それでも私は「台湾人の良心」を信じる。まだまだ波風はあろうと思うが、関係者の努力を期待する。

■中国がドイツから新幹線を輸入

さて、ほぼ同じ頃報じられた「中国、ドイツ・シーメンス社からの車両輸入決定」についても触れたい。
中国は数年前、北京-上海間に高速鉄道導入、ということで入札をかけた。ここでは上海空港線にリニアを導入したドイツが圧倒的に優位と思われたが、明確な決定はなかった。主な原因は、ドイツがリニアの基幹情報を中国に開示しなかったことにある(鉄道関係者筋)と言われている。

ところが今年初め、中国は「いきなり300キロは刺激が強い」として、在来線の200キロ運行を目玉に再入札をかけた。応札したのはフランス&ドイツの欧州連合、ボンバルディア(飛行機の製造会社)を軸にしたカナダ連合、JR東日本(葛西さんのJR東海とは違う)を軸にした日本連合であった(車両メーカーは困惑した。かつて東急車両は北京地下鉄の一件で技術を盗用された苦い経験があるから)。結果、3社とも落札した。またしても玉虫色の決着となった訳である。

私はかつて「新幹線とは、ただ早く走るだけではない。”信号機のない専用線を、全線複線で同一方向に走り、”同一性能の車両が走る、ことが基本」と論じたことがある。皮肉にも中国はこの前提を飲んだ、別に私の意見を取り入れたとは思わないが……。

日本連合が受注するかもしれないと密かに危機感を感じてはいたが、今回の中国の判断は正しい。たかが車両と言うなかれ、欧州スタイルと新幹線は根本的に違う。

おりしも対中国の武器輸出が凍結になった時勢である。中国の決断を大いに評価したい。