3月20日の台湾総統選挙を目前にした3月12日から14日まで、公式訪台団「台湾総統選挙視察団」(黄文雄団長、林建良副団長)を組んで訪台してまいりました。本会の公式訪台団は、昨年9月6日の台湾正名運動に参加して以来2度目となります。参加者は、東京、関西を中心に福井や大分からも加わり、現地合流者を入れて総勢48名。

台湾では、李登輝・前台湾総統、謝長廷・高雄市長、黄崑虎・李登輝友之会全国総会会長(総統府国策顧問)、陳唐山・立法委員(前台南県知事)、羅志明・立法委員(高雄市李登輝友之会理事長)などとお会いして交流を深めるとともに、13日には、李登輝前台湾総統や呂秀蓮副総統など66万人が参加して開かれた陳水扁総統支援集会の模様も視察してまいりました。

参加者からはこもごも「久しぶりに血が騒いだ」「こんなにワクワクしたのは初めてかもしれない」「日本李登輝友の会ならではのツアーだ」といった感想が寄せられ、全員、何事もなく帰国できたことで、大成功の視察団となりました。ここに、視察団の模様をご報告いたします。

◆3月12日(金) 晴 28度
成田、名古屋、関空、福岡の各空港より出発して台北にて合流、一路、高雄空港へ。高雄空港では、台湾の大手テレビ局の「中天テレビ」が待ち受けており、参加者へそれぞれインタビュー。その後、専用バスにて屏東の「阮朝日228記念館」へ。

阮朝日228記念館は、228事件で犠牲になった新聞人の阮朝日氏の長女である阮美?さん(台北第三女学校卒)が2年前の2002年(平成14年)3月23日に開設した、台湾初の個人記念館。昨年、李登輝前台湾総統も曽文恵夫人とともに訪れ、4時間をかけてじっくり拝観しています。

普段は、毎月、1日から7日までの1週間しか開いていないところ、ご無理をお願いしたにもかかわらず快く開けていただき、阮美姝さん自ら案内してくださいました。2階建ての記念館はもともと阮朝日氏の生家で、ここに阮朝日氏の日記や書翰などはもとより、228事件の様子がパネル展示してあります。記念館には台湾のマスコミも駆けつけていて、林建良氏が対応、本会の目的や日本での活動などを説明しました。ここを約1時間40分ほどかけて見学、前途有為の台湾青年約3万人が虐殺された228事件という台湾の戦後悲史に触れ、改めて亡くなられた方々に追悼の誠を捧げました。しかし、開館して間もないこともあって、日本ではまだまだその存在さえ十分に知られていません。高雄空港から車で1時間ほどのところですので、ぜひ訪問したいものです。

この阮朝日228記念館を訪問後はそのまま宿泊先のホテルへ向かう予定でしたが、全世界から約500人を超える人々が集う「世界台湾人大会兼世界台湾同郷会大会」の前夜祭会場へ私どもも出席できる許可をホスト役の謝長廷・高雄市長からいただいたという朗報が寄せられ、急遽、会場である旧高雄市庁舎(現・工商展貿中心)へ。

「参加した日本人を代表して挨拶に立った柚原正敬日本李登輝友の会事務局長は、同会は李登輝氏の理念に共鳴する者の会であり、その目的は日本と台湾が共に栄えることであると説明した。今回の総統選挙は特に重要だとしたうえで、陳水扁総統の理念への支持を表明。台湾の民主化は止められないという見方を示した。陳水扁氏の勝利と、李登輝氏の来日実現を願う、としめくくった。またスピーチの後に『トヲシア・リー(ご清聴ありがとうございました)』と台湾語を披露し、会場からは盛大な拍手が巻き起こった。そして日本語で『台湾万歳』を、また台湾語で『アピーア、トンソアン(陳水扁当選)!』を、会場が心を一つにして唱えた。」

興奮冷めやらぬまま一行はホテルへ向かい、その後、ホテルにて夕食会。この夕食会には、李登輝前台湾総統の信任厚い何聰明氏(旧制高雄中学校22期生)や羅志明・立法委員(国会議員)、洪百川・高雄中学校校友会会長、陳堅強・台湾南星会会長なども参加。紹興酒の差し入れしていただいたこともあって夕食会は大いに盛り上がりました。

この席の途中で、明日、李登輝前台湾総統にお会いできることが判明、夕食会はいよいよ盛り上がり「台湾万歳」「日本万歳」の大合唱となり、いただいた10本の紹興酒もすべて空けてしまいました。その後、10時から約1時間30分、林建良、柚原正敬、永山英樹の3氏は世界台湾人大会の会場である漢来大飯店へ出向き、黄文雄団長らとともに「台湾日報」記者との懇談会に臨んでいます。

◆3月13日(土) 晴 24度
9時より始まる「世界台湾人大会兼世界台湾同郷会大会」の開会式へ参加。この会には金美齢総統府国策顧問や陳明裕・在日台湾同郷会会長(本会理事)など多くの在日台湾人の方々も参加、私ども視察団は開会式に参加するだけの予定だったのですが、急遽、視察団を代表して柚原正敬事務局長が挨拶を求められました。

世界台湾同郷会の副会長をつとめる林建良氏が通訳をつとめ、柚原事務局長は今回の総統選が日本にとっても大事な選挙であり、台湾の国民投票を支持する旨を表明するとともに、外務省による国民投票への内政干渉を非難、また、靖国神社でいただいたZ旗を持参して日露戦争における日本海海戦の故事を紹介して総統選の意義を強調すると、会場からどよめくような盛大な拍手が巻き起こりました。因みに、このZ旗は大会中、ずっと会議室テーブルの真ん中に飾られ、その意味を知らない人に解説されたそうです。その後、一行はそのご自宅は重要文化財級と聞き及ぶ台南の黄崑虎・李登輝友之会全国総会会長(総統府国策顧問)宅へ。

台湾の伝統的な建築であるロの字型になった四合院造りのご自宅は、現在、台湾にほとんど唯一残る完璧な造りだといいます。玄関に続く道路に沿って池があり、前庭や後庭をしつらえた造りになっており、大正13年から2年の歳月をかけて建てられた建物は、今も自宅として使われており、古き良き台湾の風情がたっぷり味わえます。この席には、「台湾の石原慎太郎」といわれる現立法委員で台南県知事を2期つとめた陳唐山氏も招かれていて、バイキング形式で用意していただいた台湾料理の昼食を共にしました。四合院造りの中庭にしつらえてある椅子に座り、南洋の鳥の鳴き声が聞こえる中、台湾料理を堪能した次第です。

ここでいささかゆっくりしたせいもあり、次の訪問地である許文龍氏の奇美博物館ではあまり時間がとれず、約40分の参観。本来なら2時間でも足りないところを、案内役をお引き受けいただいた許文龍氏と同級生という石榮尭氏は、嫌な顔一つ見せず、後藤新平、八田與一、李登輝前台湾総統などの胸像や許文龍氏が収集した絵画などをきれいな日本語で丁寧に解説していただきました。また、わざわざバスまでお見送りいただいたのには恐縮しました。

さて、次はいよいよ李登輝前台湾総統とお会いする高雄空港です。この視察団が出発する前、台湾側との打ち合わせでは、李登輝前台湾総統は総統選挙の応援で農村や漁村へ出かけていてお会いするのは難しいとの返答をいただいていましたが、前日の夜、急遽、高雄空港で短時間ならOKということになったことは前記したとおりです。

午後6時頃から、私ども視察団をはじめ世界台湾人大会に出席していた在日台湾同郷会の方々や黄崑虎・李登輝友之会全国総会会長、羅志明・立法委員など約80人は、手に手に小旗を持ち、「百万人手護台湾」と染め抜かれた鉢巻を締め、今か今かと貴賓室への通路でで待っていました6時30分過ぎ、李登輝前台湾総統が現れるや万雷の拍手で出迎え、興奮は最高潮に達し、李登輝前台湾総統は1人ひとりと握手しつつ貴賓室へ向かわれました。その後、私ども視察団は李登輝前台湾総統との記念撮影を許されて貴賓室へ入室。李登輝前台湾総統は黄文雄団長や林建良副団長と一言二言交わされた程度でしたが、それでも十分に意志は伝わっているという信頼関係あふれる雰囲気でした。

その後、陳水扁総統支援集会の会場となった高雄市美術館前の広場へバスで移動。会場はこれが台湾の選挙応援だといわんばかりに人、人、人であふれ、鳴り物が鳴り、日本の選挙風景からは想像できないほどの熱い雰囲気に包まれていました。それもそのはずで、会場の外にまで人はあふれ、なんと66万人もの人々が集まっていたと翌日の台湾メディアは報じていました。高雄市で開かれた集会では、史上初めての規模だったそうです。基隆から屏東まで200万人以上が手をつないだ2月28日の百万人手護台湾運動といい、高雄のこの集会といい、これまでの総統選挙と違い、台湾史上初ということが頻出。台湾人の意識は確実に変化していることが読み取れます。

66万人が集まったこの会場を練り歩くこと約40分、全身汗びっしょり。通り道はあるものの、まるでラッシュアワーのプラットホームを突き進んでいるような、祭りの真っ只中を歩いているような感じでした。日本から来たということがわかると何人もの人々から握手を求められ、「台湾一番!」「頑張れ!台湾」「台湾万歳」の大合唱。台湾の人々から大声で「ありがとう」と日本語で言われるのに対して、こちらは「多謝(トーシャ)」と台湾語で返すという奇妙な、それでいてたいへん心地よい、ワクワクドキドキの40分でした。中には「頑張れ!台湾」と言ったことに対して、日本語で「肝に銘ずる」と返ってくることもあったようです。

その興奮冷めやらぬまま9時30分近くにホテルへ戻ると、現在、ワシントンDCにお住まいで、世界台湾同郷会栄誉顧問の陳和弘氏が私どものためにホテルの前の店に宴席を用意していただいていた。実は、陳和弘氏から、この日の夜、世界台湾人大会の会場にしつらえた晩餐会へ招待されていたのですが、李登輝前台湾総統と急遽お会いすることになってやむなくお断わりしたのですが、それでも陳和弘氏はせっかく日本から見えたのだからと、夜も遅いのにご用意いただいたのでした。そこで、お言葉に甘えて全員でご馳走になった次第です。本当に頭が下がりました。

◆3月14日(日) 晴 27度
いよいよ最終日。関空組は飛行機の都合で朝7時に出発。それ以外の参加者は、予定どおり高雄市内にある日本人墓地へ。市内三民区の覆鼎金公墓内にあるこの日本人墓地は、台北、台中、高雄の三地区に分けてつくられた「日本人遺骨安置所」の一つで、訪れる日本人ツアーはほとんどいません。高雄には蓮花潭や三鳳宮といった観光地もありますが、日本の先人が台湾で成し遂げた営為に敬意を表し、慰霊の誠を捧げて顕彰することは、歴史をつなぐ意味で大切なことと思い、敢えて選んだ次第です。

この日本人墓地では、鬱蒼と茂ったガジュマルの葉や実が落ちていたため、率先して箒を見つけて清掃する方がいて、掃き清められたお墓に靖国神社でいただいたお札と、台湾で入手した日本酒や菊の花、果物などを供え、1人ひとりが丁重にお参りしました。その後、少し時間が余りましたので、空港への道すがら旗津半島にある「高雄の東照宮」といわれる媽祖廟の「広済宮」に立ち寄り参拝見学、中には「陳水扁総統の再選を祈った」という方もおられたようです。

これで、台湾総統選挙視察団の全ての日程を滞りなく終え、一路、高雄空港へ向い、帰国の途につきましたが、出発を待つ間、訪台したのはずっと前だったような感覚にとらわれた方が少なくなかったようで、それだけに充実した内容の訪台だったと言えそうです。