第9回 日本李登輝学校台湾研修団

平成20年5月23日(金)~26日(月) 41名(伊藤英樹団長)

5月23日から3泊4日の日程で開催された李登輝学校台湾研修団は最終日に李登輝校長の特別講義と昼食会を終え、全ての日程を終了して帰途についた。3月の総統選挙後初めての開催となり、5月20日からの国民党政権発足から間もないとあって、参加者の関心も一段と高い。講師陣には今回から新たに李明峻・台湾国際法学会副秘書長(「東アジアの新情勢と日台関係」)や陳茂雄・国立中山大学教授(「台湾における政党の形態と政局の発展」)などが加わり、烏来や北投での野外研修と共により一層充実した内容の研修を振り返る。


第9回・台湾李登輝学校研修団(伊藤英樹団長・佐藤藤助副団長)は、5月23日から26日まで、三泊四日の日程で行われた。5月20日からはすでに馬英九政権が船出しており、李登輝元総統をはじめとする講師の先生方から台湾の行く末や日台関係についての展望が聞けるのではないかと期待する41名が参加した。

SONY DSC■第1日・5月23日(金) 日本各地から集まった参加者は、桃園空港から一路、淡水へ移動。ここで現地参加組と合流し、休むまもなく研修スタートである。前回の開催から、研修会場を李登輝学校のオフィスが入る淡水の瀟洒なビルに移しており、好評を博している。

すでにお馴染みとなった郭生玉・秘書長の歓迎の挨拶を受け、いよいよ研修開始。

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郭生玉・秘書長より歓迎の挨拶と主旨の説明

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会場にはお馴染みの垂れ幕が。後ろは臨時通訳を務めていただいた参加者の蕭伊芬さん

講義第一弾は、研修団では初めて講義いただく李明俊先生(台湾国際法学会副秘書長)の「日台関係の歴史と発展」でスタート。

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重量挙げ元オリンピック台湾代表の李先生。奥様との会話はフランス語です。

京都大学で博士号を取得後、岡山大学で教えていた李先生は、台湾の国際法学界では若手のホープとして期待されており、台湾の法的地位に関する著作や訳書も多い。東アジアにおける台湾の戦略的な地位から説き起こし、台湾をめぐる国際環境がいかに変容してきたかを丁寧に話していただいた。この李先生、190センチはあろうかという威丈夫、さらに横にも大きい。奥様はソウルオリンピックの円盤投げドイツ代表、ご自身も重量挙げ台湾代表として出場して知り合ったとか。講義後も、李先生には晩餐会までお付き合いいただき、話しきれなかった講義の続きから家庭秘話まで披露。曰く、娘二人を含む家族の中で一番小さい、とか。初日の夜は楽しく更けていった。

■第2日・5月24日(土)今日も快晴。5月とはいえ、台湾ではすでに朝から汗ばむ陽気だ。この日の講義は林明徳先生(国立台湾師範大学教授)の「台湾主体性の追求」からスタート。いつもながら、緻密な研究に裏打ちされた林先生の「台湾は中国ではない」理論に、一同熱心に耳を傾けている。講義が終わると、次々と質問の手が挙がるが、時間の関係で打ち切らざるを得ないほど。

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質問する竹市敬二さん(滋賀県)。全9回の開催中、8回目の参加。ますます元気です。

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間もなく訪れる端午節(旧暦5月5日)にちなんで粽が

休憩時には、李登輝学校のスタッフが毎度心尽くしの茶菓を用意してくれる。すでに参加者と顔なじみのスタッフもおり、和気藹々とした雰囲気。

SONY DSC続いては台湾経済界の重鎮、黄天麟先生(元第一銀行頭取)の「台湾の経済」。国民党政権が発足し、台湾と中国の接近は必至と見られているなか、従来からの中国経済依存はさらに深度を増すのか、それとも別の局面があるのか、参加者の関心も高い。

昼食はお弁当。台湾ならではの鶏腿肉の醤油煮や味玉子が弁当箱の中に所狭しと並んでいる。デザートや飲み物もたっぷり。お弁当ひとつ取っても、食べ物が豊富な台湾を実感する。

午後からは野外研修として烏来へ出発。温泉地としても有名な烏来は元々タイヤル族の居住地で、今も多くのタイヤル族が生活を営んでいる。会場となったレストランでは、馬莎振輝先生(タイヤル族民族議会議長)ご夫妻や烏来郷高砂義勇隊記念協会の簡福源理事長、移転前の高砂義勇隊記念碑を建立した故周麗梅さんのご子息で、碑を護持されているマカイ・リムイさんらが待ち受けていて下さった。

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歓迎の挨拶を述べる簡理事長

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パソコンを操っての講義は馬莎先生

高砂義勇隊記念碑は、場所を提供していた会社が一昨年に倒産して土地が人手に渡ることとなり、日本や台湾からの募金によって台北県政府所有地への移転が決まった。だが、国民党などからの反対を受け、全面撤去こそ逃れたものの記念碑は板で覆い隠され封鎖される羽目に。しかし研修直後の5月末、台北県政府側が封鎖を解除し、撤去した石碑をすべて元に戻すことで全面解決のメドが立った。9月には施工に入る予定だという。

馬莎先生の講義は「台湾原住民の歴史」。今回はパソコンに加え、プロジェクターまで自前で用意し、スライドを駆使しての講義である。日本人以上に達者な日本語に加え、パソコン用語が次々飛び出してきたのには驚いた。

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竹垣に囲まれているのが、件の高砂義勇隊慰霊碑

山の天気は変わり易く、講義が終わる頃には大雨となったが、一同は高砂義勇隊記念碑へ。簡理事長や馬莎先生にもご一緒いただき、伊藤団長による献花の後、黙祷を捧げた。

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原住民料理を囲んで。窓の外は霧を被った烏来の山並み

会場へ戻ると、今度はお楽しみの原住民料理が待っていた。草魚の唐揚や山菜炒めは自然とともに暮らしてきた原住民ならではの料理。タイヤル族名物のどぶろくも振舞われて、一同の箸が進んだのは言うまでもない。

■第3日・5月25日(日)朝一番、研修会場に集まった私たちに届いたのは悲報だった。前夜、第2回の李登輝学校研修団から通訳・ガイドとしてお世話になってきた李清興さん(勝美旅行社社長)が、患っていた食道癌のため急逝されたという。治療の甲斐があり、最終日の李登輝校長の講義には出席して皆さんに会いたいと連絡があったばかりだった。第8回の折、台風で講師の方が来られず、代打講師として急遽、国民党圧政下の台湾を語っていただいたこともあった。御冥福をお祈りします。

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最終日の李登輝校長先生の講義には顔を見せてくれると連絡を受けていたのに、直前の急逝だった。

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第7回研修団のひとコマ

SONY DSCこの日の講義は迫田勝敏先生(元中日新聞台北支局長)による「日本人の台湾生活経験」から。毎回、迫田先生には台湾の日常生活に根ざした内容を語っていただき好評を得ている。総統選挙にあたり、国民党はいかにして組織動員したか。それにはマンションの管理組合が利用されたというのだ。こんな話は日本では絶対に報道されないし、台湾でも耳にしたことがない。鋭いジャーナリストの視線を持つ迫田先生ならではの充実した講義だった。

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佐藤藤助・副団長から記念品の贈呈

続いては研修団初登場、陳茂雄先生(国立中山大学教授)による「台湾の政党の歴史」。陳先生は筋金入りの独立派として、また李総統の擁護者としても知られる。台湾では今年一月の立法委員選挙から小選挙区制が導入され、選挙制度も様変わりした。情熱的な話し方は聴衆を魅了する。なかなか分かりにくい国民党執政時の黒い選挙から最新の選挙事情に至るまで、選挙の裏側を丁寧に話していただいた。

昼食後は2回目の野外研修として北投の温泉博物館と文物館へ。台北近郊にある北投は、台湾で初めての温泉地として名高い。拓かれたのは日本時代の1913年。博物館では当時の公衆浴場が保存されている。湾生で、青春期まで台湾で過ごした参加者の竹市敬二氏は「この浴場を覚えている。小さい頃に家族で来た」と話していた。

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湯あがりにゴロンと大の字になりたくなるような畳の大広間

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板敷きの廊下の左は畳の大広間。右は台湾風の赤レンガのテラス。「和台折衷」です。

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陽光眩しい芝生の中庭では、花嫁が結婚の記念写真を撮影中

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博物館裏手の「瀧の湯」には、皇太子殿下時代の昭和天皇が来台されたときの記念碑がひっそりと建っている。

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瀧の湯のご主人にお得意の中国語で質問する参加者の野村亨・慶大教授

北投文物館では「結婚」をテーマに台湾・日本・原住民(タイヤル族)の文化を紹介する展示が行われていた。例えば、花嫁衣裳ひとつをとっても、三つの文化それぞれに独自の衣装があり、目にも艶やかだ。それにしても台湾の文化は多彩だ。元々の文化に日本文化と中華文化が流入し、原住民文化が多層性を加えている。例えば、日本では婚礼の儀式に純真無垢をイメージする白を基調とすることが多いが、一般的に台湾では葬礼を連想させるため縁起の悪い色とされている。こうしてテーマごとに日台間の文化を考えていくのも面白い。参加者にも大好評だった。

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修復されたばかりの文物館。とても台湾だとは思えません

夕方以降は自由行動。伊藤団長や片木裕一・李登輝学校日本校友会理事長らと李清興さんの通夜に駆けつけた。世話好きで通っていた李さんのこと、李登輝学校の同窓生がたくさん手伝いに来てくれていた。
SONY DSC■第4日・5月26日(月) 朝から篠つく雨。とはいえ、今日は李登輝校長先生の講義が聞けるということで、参加者も一様に興奮気味だ。午前十時過ぎ、李校長が相変わらずの笑顔を湛えて教室に入ってこられた。一同、大きな拍手で歓迎。挨拶もそこそこに、さっそく講義に突入。やはり講義の焦点は、新しく発足した馬政権について。

「当選を果たした二日後、馬英九氏と蕭萬長氏が訪ねてきたのは、日台関係のパイプのなさを心配しているのだろう。巷では国民党が政権に返り咲いてまた元の暗黒時代に戻るなどと言われているが、台湾の民主主義の深度からいってそれはない。むしろ国民党を変えるチャンスだ。現に、私は国民党の中にいて民主化を成し遂げた。それに馬氏は中国よりも、むしろアメリカの影響を強く受けている」と分析。

講義は続いて台湾の国際的地位へ。李校長の主題は戦争法。戦後、日本は米国の占領下におかれ、戦争法に基づいて統治が行われた。台湾は米国の指示により中華民国に占領が任された。

しかるに、現在も台湾は占領統治下におかれているというわけで、米国の沖縄統治と同じ発想ができる。そのためには戦争法の研究を台湾でチームを組んで進める必要があるなど、相変わらず緻密な研究と斬新なアイディアに満ちた講義だった。

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SONY DSC続いての修了式では、李校長みずから参加者全員に修了証書を手渡されて記念撮影。

昨年の訪日直後の第八回、国民党新政権発足後の今回と、時宜を得たタイミングで研修団を開催してきたのは本会の面目躍如というところだ。ご協力いただいた関係各位に心より御礼申し上げる次第である。

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